最新記事

告発文書

ウィキリークス爆弾で外交は焼け野原に

2010年11月30日(火)18時43分
クリストファー・ディッキー(中東総局長)

 中東の重要地域で米大使を歴任した人物が今朝、私にこんな個人メールを送ってきた。「今後は文書による報告や、通信がさらに減ることになる。後になって何が起きたのかを整理することを考えたら、最悪の事態だ。今でさえ難しいのに、今後はもっと難しくなる。みんな(もしくは内情に精通している人々)が口頭で情報伝達を行うようになる。子供の頃に『伝言ゲーム』をやったことはあるかい?」。

 何人かで次々とメッセージを伝達していくと、最後の人には最初のメッセージが正しく伝わっていない、というあれだ。彼が予想するには、政府内部のやりとりは伝言ゲームのようになる。

ペンタゴン・ペーパーとは次元が違う

 中国との微妙なやり取りや、リビアの最高指導者ムアマル・カダフィ大佐がセクシーな「ウクライナ人看護師」と恋仲にあるという内容には、私も好奇心を掻きたてられた。しかし今回の機密文書については、公表することに意味があるのか疑問に思えてくる。

 ベトナム戦争に関する国防総省の機密書類「ペンタゴン・ペーパー」や、ウィキリークスが今年になって暴露したアフガニスタンやイラク関係の文書は、非難の的となっている戦争の内情を暴露したり、既知の事実を再認識させるのに役立った。だが今回の暴露は、極秘の外交交渉という考え方自体に喧嘩を売っているようなもの。こうしたやり方は間違っているだけでなく、馬鹿げている。

 ライアン・クロッカー元イラク駐在米大使の言葉を借りるなら、「アサンジはアナーキスト(無政府主義者)だ。政策論争に関心があるのではなく、暴露することだけが目的なのだ」。

 電子メールやフェースブックの利用者なら、何が問題なのか分かるはずだ。私たちは情報を送りたい相手や、公開してもいいと思う情報を選んでいる。だから、自分のメールが知らない間に転送されていたら不快に思うだろう。フェースブックでは、自分がアップした情報の公開先について自分でもっとコントロールしたいという要求が高まっている。

 外交官にもこれくらいの機密性が保障されてもいいはずだ。政府の透明性は原則としては正しいし、奨励すべきだ。だが高すぎる透明性はコミュニケーションを円滑にするのではなく、押さえつけてしまう。今の状態がまさしくそれだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港GDP、第3四半期は前年比+3.8% 予想上回

ワールド

北朝鮮の金永南・前最高人民会議常任委員長が死去、9

ワールド

高市首相、来夏に成長戦略策定へ 「危機管理投資」が

ワールド

マクロスコープ:国会本格論戦へ、立憲は消費減税で攻
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中