最新記事

告発文書

ウィキリークス爆弾で外交は焼け野原に

内部告発サイトの無差別的な機密暴露のせいで、外交はますます密室に潜り、透明性も犠牲になる

2010年11月30日(火)18時43分
クリストファー・ディッキー(中東総局長)

情報のテロリスト? 暴露それ自体が目的なら、ウィキリークス創設者のアサンジの行為は正当化できない Valentin Flauraud-Reuters

 内部告発サイト「ウィキリークス」は11月28日、約25万点に上る米国務省の外交公電の暴露を始めた。ウィキリークスが情報を提供したニューヨーク・タイムズ紙など欧米の一部メディアは今後しばらく、アメリカと世界との生のやりとりを報道していくことになるだろう。

 外交公電とは通常、非公開を前提に交わされるもので、普通なら知り得ない外交の内実がありありと描かれている。これを暴露するということは、まさしくニューヨーク・タイムズ紙が言うところの「世界的なのぞき行為」だ。

 ウィキリークスの暴露情報をつかんだオバマ政権は、事前にダメージをコントロールしようと必死だった。今回の事態がただでさえ危険な地域、特に中東情勢をさらに不安定にしかねないのは明らかだ。外交公電の公開は、あえて喧嘩を吹っかけたい時に使うような挑発的な「売り言葉」になる。

 公開された文書から、湾岸諸国の指導者たちがイランのマフムード・アハマディネジャド大統領を政権の座から引きずり落として欲しいと、アメリカに頼んでいたことが明るみに出た。彼らがそう願っていたことは公然の秘密だったが、今回、イラン政府は屈辱的な売り言葉を正面切って言われたように感じたはずだ。これは、ただでさえ危険なアハマディネジャド政権をさらに向こう見ずな行動に駆り立てる可能性がある。

 イエメンのアリ・アブドラ・サレハ大統領が、国際テロ組織「アルカイダ」の拠点に対するアメリカの空爆を許可しながら、アメリカの関与を否定していたことも周知の事実だった。だが暴露された公電にはサレハが今年1月、アフガニスタン駐留米軍司令官のデービッド・ペトレアスに述べたこんな言葉が含まれていた――「爆撃はアメリカではなくイエメンがやったと、我々は言い続ける」。さらに、イエメン議会には嘘を付いている、とイエメンの副首相が笑い飛ばしたというくだりも登場する。

今後の情報伝達は「伝言ゲーム」になる

 こうした会話が公開されればイエメンの面目がつぶれるだけでなく、秘密裏にアルカイダ組織を攻撃することが一層難しくなる。「部外秘」「極秘」などと分類された文書の大量流出で真っ先に、そして長期的にダメージを受けるのはウィキリークスの創設者ジュリアン・アサンジが掲げる「透明性」だ。

 アサンジは7月にアフガニスタン関連の機密文書を暴露した後、「透明性の高い政府こそが正当な政府だ」と主張していた。だが透明性の高い外交とは、建前しか存在しない「報道発表」レベルであるのが現実だ。

 今後、米国務省は同盟国との率直な会話や、敵との秘密裏の交渉が行いづらくなるだろう(アメリカは口が軽いと分かっていたら敵が交渉に応じるわけがない)。さらに厄介なのは、米政府内での率直なやりとりさえ難しくなること。リーク防止策として文書の機密性が高められ、出回る文書が少なくなり、重要性の高い情報については文書という形で記録されること自体がなくなるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、和平に向けた譲歩否定 「ボールは欧州と

ビジネス

FRB、追加利下げ「緊急性なし」 これまでの緩和で

ワールド

ガザ飢きんは解消も、支援停止なら来春に再び危機=国

ワールド

ロシア中銀が0.5%利下げ、政策金利16% プーチ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 8
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 9
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 10
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中