最新記事

選挙

ネット世代の幻滅でオバマ離れに拍車

08年の大統領選でオバマを支持したネットの草の根運動が、ITバブルを上回る速さで崩壊したのはなぜか

2010年11月12日(金)14時53分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

「ネットの草の根運動」に一体何が起きたのか──。2日に実施された米中間選挙で共和党が民主党に圧勝してから、私はそう自問し続けている。2年前、私も含めて多くの人が、オバマ大統領誕生に貢献したネット世代の若者たちはこの先もオバマのそばを離れずに支え続けるはずだと、本気で考えていた。

そうした若者の草の根パワーは既に枯れ果てた。代わってペイリン前アラスカ州知事率いる保守派の草の根運動ティーパーティーが、フェースブックやツイッターなどのソーシャルメディアを使って反オバマののろしを上げている。

 08年の大統領選後にダニエル・ストーンと連名で書いた記事を読み返すと、恥ずかしくていたたまれない気持ちになる。私たちはオバマの「軍隊」に集まったネット世代の若者たちが「オバマのそばを離れずに支え続けようとしている」と絶賛した。彼らが「自分たちもより深く関与し、統治プロセスに参加したいと思うはずだ」という、オバマ陣営のテクノロジー戦略担当者の言葉も紹介した。

 2人ともすっかりハイになって、大胆な予測をした。一般市民を交えたオンライン上のフォーラム。政策案を徹底的に話し合って票決を取るウェブサイト。ネットが民主主義そのものの本質を変え始めている可能性にまで触れた。

 ところがわずか2年間で、オバマを支持するネットの草の根運動は、ITバブルを上回る速さで崩壊した。08年の大統領選に向けてオバマ陣営が開設した公式サイトのアクセス数を見るといい。08年10月は全米で850万人がアクセスしたが、今年9月には66万4000人に激減。SNS版のアクセス数も08年9月の420万人から、今年9月は54万9000人と急速に減少している。

 オバマは「選挙のやり方を変えたが、統治のやり方は変えなかった。その間に、彼を大統領の座に就かせた若者の支持を失った」と、ネット事情に詳しいドン・タプスコットは言う。

選挙後の政治からは疎外

 ハーバード大学政治研究所の調査によると、過去1年間、00年代に選挙権を取得した世代(18〜29歳)のオバマ離れが深刻になっている。「自分たちの協力で生まれた運動から外されたと感じている」と、同研究所の世論調査責任者で、ソーシャルメディア戦略企業の共同経営者でもあるジョン・デラボルピは書いている。

 オバマのネット活動の立役者たちも距離を置き始めている。フェースブックの共同設立者で、同社を辞めてオバマのSNS戦略を陣頭指揮したクリス・ヒューズは、新たな社会変革サイト「ジュモ」を開設した。オバマ陣営のSNSサイトを構築したテクノロジー戦略企業ブルー・ステート・デジタルは、企業向けビジネスにも力を入れ始めた。

 同社の共同設立者であるジョー・ロスパーズは大統領選でオバマ陣営のニューメディア部門の責任者を務めたが、選挙後は同社に戻った。それでもロスパーズによれば、オバマ政権はソーシャルメディアを使ってより多くの人を関与させることに真剣に取り組んでいる。ソーシャルメディアで民主党の選挙運動を支援する草の根団体「オーガナイジング・フォー・アメリカ」は今年、中間選挙としては従来になく多くの支持者を選挙運動に参加させた。

 それでも民主党は負けた。オバマがネット活動家の期待に十分応えられなかったことが、災いしたのかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米3月新築住宅販売、8.8%増の69万3000戸 

ビジネス

円が対ユーロで16年ぶり安値、対ドルでも介入ライン

ワールド

米国は強力な加盟国、大統領選の結果問わず=NATO

ビジネス

米総合PMI、4月は50.9に低下=S&Pグローバ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親会社HYBEが監査、ミン・ヒジン代表の辞任を要求

  • 4

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 5

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 9

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中