最新記事

米経済

FRB金融緩和策のヤケクソ度

2010年11月18日(木)15時31分
ロバート・サミュエルソン(本誌コラムニスト)

 最もありそうな政策を前提に調査会社ムーディーズ・アナリティックスが行った試算では、失業率を0・2ポイント下げる効果がありそうだという。株価も少し上がって人々は消費を増やし、ドル安のおかげで輸出も伸びるはずだ。
 
 だがその効果は危険と隣り合わせだ。FRBが国債を買うと、市場にはドルがあふれる。しかもこれまでのところ、カネが潤沢だからといって借り入れを増やして消費や投資に回そうという動きにはほとんどつながってこなかった。家計は将来不安に悩まされ、企業も慎重になっているからだ。消費者ローンの残高は08年夏から減り続けている。

 ある意味、追加緩和は焼け石に水だ。銀行は今でもざっと1兆ドルの余剰資金を持っている。だが、超低金利がひとたび経済成長を加速させ始めれば、これらの余剰資金の多くは貸し出しに回る。それまでダブついていたカネが一気に実体経済に流れ込むのだから、人々はインフレの亡霊に怯えるようになる。

停滞経済に「薬」はない

 そのときFRBは、金利を上げて余分にばらまいたカネを吸い上げなければならない。もし11月に追加緩和をやって銀行の余剰資金をさらに増やしていたとすれば、金融引き締めはその分困難になる。

 また、失業率が高いのに利上げをすることに対する抵抗も強いはずだ。米カーネギー・メロン大学の経済学教授アラン・メルツァーは、FRBの引き締めが60年代や70年代のときと同じく手遅れになるのではないかと懸念する。「遅かれ早かれ、猛烈なインフレがやって来るだろう」と、彼は言う。

 経済学者の意見は2つに分かれているようだ。一方は、ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマンのように、経済は瀕死の状態にあるのでわずかでも経済の助けになりそうなことは財政赤字拡大であろうと量的緩和であろうと何でもすべきという一派。もう一方はメルツァーのように、急場しのぎの政策は将来により大きな禍根を残すことになると考える一派。

 だが両派に共通の前提がある。この停滞し切った経済に即効性のある薬はなく、現実のFRBは、神話化されたFRBよりずっと無力だったということだ。

[2010年10月27日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア西部2州で橋崩落、列車脱線し7人死亡 ウクラ

ビジネス

インフレ鈍化「救い」、先行きリスクも PCE巡りS

ワールド

韓国輸出、5月は前年比-1.3% 米中向けが大幅に

ワールド

米の鉄鋼関税引き上げ、EUが批判 「報復の用意」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 4
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 5
    「ホットヨガ」は本当に健康的なのか?...医師らが語…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    メーガン妃は「お辞儀」したのか?...シャーロット王…
  • 8
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 9
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 3
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 4
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 6
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中