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国際競争力

アメリカ製造業、復活への秘策

製造業は途上国との労働条件切り下げ競争になって不利、というのは誤解。高コストでも勝つカギは技術者と移民にある

2010年8月19日(木)15時54分
ラーナ・フォルーハー(ビジネス担当)

 世界金融危機以来、各国政府はいかに経済の均衡を取り戻すかという議論をしている。先進国の場合、それはおおむね財政赤字の削減を意味するが、一方で産業構造も見直す必要がある。例えばアメリカではサービス部門が国内経済の約7割を占め、製造部門は1割強にすぎない。

 アメリカとイギリスでは、不安定な金融サービス部門に過剰に依存していては、大規模な雇用創出も経済の安定も到底できないと考えられている。フランスやドイツなどでも、製造業に回帰すべきだとの声が聞かれるようになった。

 製造業で勝負する場合、安い熟練労働力をすぐに提供できる中国のような国々だけが競争相手ではない。「世界の工場」たらんとするアジアやアフリカ、中南米の多くの途上国もライバルになる。

 それでも経営者と専門家でつくる米競争力評議会と国際会計事務所デロイト・トウシュ・トーマツが6月24日に発表した調査によれば、アメリカやドイツなどの欧州諸国にもチャンスはありそうだ。調査では、グローバル企業のCEO(最高経営責任者)400人が製造業の競争力を左右すると考える要因を集計した。

 それによると、ある国が製造業で成功する秘訣は、安い労働力の確保ではなくイノベーション(技術革新)。一般に製造業は「底辺への競争」(労働条件や環境基準の切り下げ競争)に陥ると考えられているが、現実は違うらしい。

 だからこそ国際競争力ランキングで、労働コストが非常に高いアメリカが中国、インド、韓国に次いで4位を維持し、ドイツ、日本、シンガポールもトップ10入りしているのだろう。労働者の技能水準の高さが彼らの人件費を相殺して余りあるというわけだ(アメリカ人労働者の生産性は、主な製造業国家10カ国の2倍)。

 儲けの多い高付加価値製品の製造では、技能水準は特に重要だ。イノベーションの半分近くはこの分野で起こる。「人材は21世紀の石油だ」と、米競争力評議会のデボラ・ウィンススミス会長は言う。

二流大学の学位がいちばん無駄

 石油自体もある意味で重要だ。工場の立地を決める要因として、エネルギー費や原材料費は人材・賃金に続く3位。これはアメリカには不利だ。中国や多くの欧州諸国とは異なり、米政府には一貫したエネルギー政策がない。環境に優しい雇用をつくる「グリーンジョブズ革命」にも取り組んでいない。今回の調査では、アメリカの国際競争力は5年以内に4位から5位に落ちるとみられている。

 競争力を引き上げる方法はある。もちろん容易ではない。国民皆が大卒である必要はないと言うのは「政治的に正しくない」だろう。だが現状では、実社会であまり役に立たない学位を大勢の学生に与える二流大学に、民間や政府の資金が投じられている。年収1万6000ドルの皿洗いを6万ドル稼ぐ溶接工に育て上げる高度な技術者養成学校に、同じくらいの資金を投じる価値はあるのではないか。

 ドイツではこの方法が功を奏しており、しかも世界最高レベルのエンジニアの養成でも成功を収めている(アメリカはこの分野でも立ち遅れている)。幼稚園から高校までの学校教育で数学や科学にもっと重点を置けば、アメリカはもっと強くなれるはずだ。

 移民政策も競争力確保に重要な役割を果たす可能性がある。ゲーリー・ロック米商務長官は、「これぞアメリカの象徴という企業の多くは移民が創業した」と指摘する。オバマ政権が移民制度改革を推し進めようと四苦八苦している今こそ、このことは覚えておいたほうがいい(筆者は、アメリカで博士号を取得した外国人全員に永住許可証を交付する案に賛成だ)。

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