zzzzz

最新記事

中東和平

アメリカがイスラエルを見限る時

バイデン米副大統領に対する侮辱も含め、パレスチナ和平を踏みにじる暴挙の数々。イランの核からこの国を守ろうというアメリカの意志は砕け散る寸前だ

2010年3月17日(水)18時51分
アルフ・ベン(ハーレツ誌記者

争いの地 東エルサレムの入植計画を白紙に戻せばイランから守るというバイデンの提案は踏みにじられた Baz Ratner-Reuters

 3月9日のジョセフ・バイデン米副大統領のイスラエル訪問は、屈辱的な大失敗と評されている。東エルサレムへの入植問題のせいではない。

 アメリカはこの1年、ベンヤミン・ネタニヤフ首相によるユダヤ人の入植拡大を止めることができず、両国間には緊張が漂っていた。今回のバイデンの訪問は、張り詰めた両国関係を立て直すため。ところがバイデンの滞在中に、イスラエル内務省はなんと東エルサレムでのユダヤ人住宅建設計画を発表してしまった。
 
 とんだ大失態だ。ただし真の悲劇は、この発表によってイスラエルが失いかねないものにある。

 バイデン訪問の目的は友情を示すことだけでなかった。ネタニヤフからいくつかの譲歩を引き出す見返りに、イスラエルの最大の敵であるイランとの戦いへの支持(と防衛)を申し出ることだ。なのに、バイデンはひどい侮辱を受けた。

 昨年、バラク・オバマ米大統領とネタニヤフが政権の座に就くと、両国の対立を予想する声が広がった。アメリカは左に寄り、イスラエルは右に寄るのだから、そう考えるのが当然だった。

 オバマは平和的で親米の中東構想(パレスチナ人国家樹立が中核だ)を掲げたが、それはイスラエルがヨルダン川西岸と東エルサレムを管理すべきだというネタニヤフの長年の主張と真っ向から対立する。だがネタニヤフは、ヨルダン川西岸と東エルサレムでの入植拡大を唱える右派連立政権と、対パレスチナ和平交渉を望むオバマの間をうまく立ち回れば、イラン戦略でアメリカの支持を得つつ、パレスチナとの交渉を一から仕切り直すことができると考えた。

 実際、先週までその目論見は成功していたようにみえる。東エルサレム以外での入植活動の一時的かつ限定的な停止と引き換えに、イスラエルはアメリカを仲介役にしたパレスチナとの「間接交渉」を行ってきた。右派との連立政権は無傷のまま続いており、ネタニヤフの支持率は2月には50%に達した(オバマの支持率が急落しているのとは対照的だ)。

 そこへ、バイデンがやって来た。表面上の目的は、アメリカの愛と支持をイスラエルに直接伝えること。中間選挙を控えた厳しい国内事情を考えれば、効果的な戦略に思われた。

和平の見返りに対イラン防衛を提案

 バイデンがメッセンジャーに選ばれたのは自然の流れだ。彼はオバマ政権上層部で唯一の伝統的なユダヤ主義者であり、ネタニヤフを30年来の個人的な友人とみなしている。ネタニヤフの心を動かすことができる人物がいるとしたら、バイデンをおいて他になかった。

 もっとも、バイデンの訪問にはより深い思惑があった。それは、イスラエルに取引を持ちかけること。イスラエルがヨルダン川西岸の入植問題で柔軟に対応すれば、アメリカはイラン問題で「あらゆる選択肢を検討して」イスラエルを支える、オバマは今後も容赦なくイランに制裁措置をちらつかせ、武力行使の可能性も排除しない──。

 そんなアメリカの提案をより外交的な言葉で表すなら、バイデンがテル・アビブ大学での講演で語ったような表現になる。「われわれは、イランが方針を転換するよう圧力をかけ続ける決意だ。それに伴い、イスラエルとパレスチナの関係改善も模索していく。(イラン問題とパレスチナ和平は)間接的ではあるが、関係がある」

 イランの核問題とパレスチナ和平を結びつける提案は、しばらく前からささやかれていた。

 もっともな言い分だ。イスラエルにとってイランの核開発が深刻な脅威であり、脅威に対抗するためにアメリカの支援が必要であるのなら、アメリカにも何か見返りを与えるべきだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相、米議会で演説へ 「戦争の真実」伝達

ワールド

韓国、東岸沖に莫大な石油・ガス埋蔵か 尹大統領が探

ビジネス

ETF含み益「けっこうある」、株安でも直ちに期間損

ビジネス

25年度PB黒字化が視野に入る努力続ける=新藤経済
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「肖像画ドレス」で歴史に名を刻んだ、プリンセス御用達

  • 3

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...すごすぎる日焼けあとが「痛そう」「ひどい」と話題に

  • 4

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 5

    1日のうち「立つ」と「座る」どっちが多いと健康的?…

  • 6

    ウクライナ「水上ドローン」が、ロシア黒海艦隊の「…

  • 7

    ヘンリー王子とメーガン妃の「ナイジェリア旅行」...…

  • 8

    「娘を見て!」「ひどい母親」 ケリー・ピケ、自分の…

  • 9

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 10

    中国海外留学生「借金踏み倒し=愛国活動」のありえ…

  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「肖像画ドレス」で歴史に名を刻んだ、プリンセス御用達

  • 3

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 4

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中