最新記事

中東和平

アメリカがイスラエルを見限る時

2010年3月17日(水)18時51分
アルフ・ベン(ハーレツ誌記者

 ネタニヤフが昨年11月の入植凍結の際に、反対する右派の連立パートナーを説得したときも、同じ論理が働いた。入植凍結と時期を同じくして、アメリカとイスラエルの安全保障上の連携が強化された。バイデンは、そうした関係をより明確に語っただけだ。

 新しい発想ではない。イスラエルは過去にも度々、和平問題で譲歩する見返りとして、安全保障上の支援を取りつけてきた。最初は1949年、トゥルーマン米大統領は、中東でのイスラエルの立場をより強固にする休戦合意と引き換えに、イスラエルにエジプト侵攻をやめるよう求めた。

 56年の第2次中東戦争では、アイゼンハワー政権から安全保障上の支援を受ける代わりに、シナイ半島から撤退。73年の第4中東戦争でアメリカから空輸体制の支援を受けた際にも、その見返りとして74年にエジプトとシリアから撤退した。最近では91年、湾岸戦争終結後にマドリードで開かれた和平会議で、イスラエルは戦争中にアメリカがミサイル迎撃態勢を敷いたことへの見返りとして、占領地返還に合意した。

 つまり、対イラン防衛のために東エルサレム入植計画を白紙にするというバイデンの提案は、長年の慣行の延長線上にあるのだ。

先に折れるのはオバマかネタニヤフか

 だがバイデンのイスラエル滞在中に入植拡大計画を発表するという最悪のタイミングのせいで、バイデンのメンツは丸潰れ。そして、イスラエルはアメリカの提案を反故にしようとしているようだ。

 オバマや側近の脳裏には、90年代後半のネタニヤフの首相1期目の記憶がよみがえった。ネタニヤフは当時、前任者のシモン・ペレス首相が進めた和平を台無しにする信頼できない人物にみえたものだ。

 オバマは決着をつけることにした。バイデンを乗せた飛行機がイスラエル領空を去ると、オバマ政権はいくつもの外交チャネルを使って攻撃を開始した。

 ヒラリー・クリントン国務長官は電話でネタニヤフに厳しい言葉を浴びせ、イスラエル側が苦言を無視しないよう会話の内容を公にした。デービッド・アクセルロッド上級顧問をはじめとするオバマの側近も日曜日のトーク番組に出演しまくり、アメリカへの「侮辱」を非難した。どれも、イスラエルを辱めることで、バイデンがもちかけた取引を受け入れさせるための作戦だ。

 しかし問題は、この作戦が機能していないことだ。ネタニヤフは発表の「タイミングが悪かった」ことについては謝罪したが、東エルサレムでの住宅建設は続けると明言している。東エルサレム問題で譲歩すれば、イスラエルの連立政権が崩壊しかねないと承知しているオバマは、アメリカの支援と右派のパートナーのどちらを選ぶのかとネタニヤフに迫っている。

 ネタニヤフが選んだのは右派だ。
彼はオバマ政権による「叱責」に抗議するようアメリカ国内のユダヤ人グループに呼びかけた。連立入りしている中道左派のエフード・バラク国防相でさえ、ネタニヤフの対応を支持し、イスラエル国内でのネタニヤフの政治的立場が揺らぐことはないと請け負った。

 こうなると、事態は両首脳の意地比べの様相を呈してくる。ネタニヤフが入植計画を撤回するのか、、それともオバマが親イスラエルのロビイストの圧力に屈するのか。

 孤立するイスラエルは、イランの核施設への攻撃に踏み出すかもしれない。だからといって、アメリカがイスラエルに屈すれば、中東全域の反米感情を強めることになりかねない。

 誰が最初に次の手を打つのかはわからない。だが、かつて理解しあっていた両国の間に、今は争いの種しかないことは確かだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン製無人機への防衛で米などが支援要請=ゼレンス

ワールド

イラン、米国へのメッセージ巡るアクシオス報道を否定

ワールド

ホワイトハウス「スペインが米軍との協力に同意」、ス

ビジネス

米2月ISM非製造業指数、56.1に上昇 3年半ぶ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 6
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 7
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 8
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 9
    戦術は進化しても戦局が動かない地獄──ロシア・ウク…
  • 10
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 10
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中