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焦点:来たる米Tビル大量発行、今後1年半で1兆ドル超 市場は順調に消化か

2025年07月15日(火)17時25分

 7月14日、米連邦政府の法定債務上限が引き上げられ、手元資金を確保しつつ膨大な財政赤字を穴埋めする必要がある米財務省は向こう1年半で1兆ドルを超える短期財務省証券(Tビル)を市場に供給すると予想されている。写真はベセント財務長官。ワシントンで6月撮影(2025年 ロイター/Kevin Mohatt)

Gertrude Chavez-Dreyfuss

[ニューヨーク 14日 ロイター] - 米連邦政府の法定債務上限が引き上げられ、手元資金を確保しつつ膨大な財政赤字を穴埋めする必要がある米財務省は向こう1年半で1兆ドルを超える短期財務省証券(Tビル)を市場に供給すると予想されている。ただ市場ではマネーマーケットファンド(MMF)を中心とする買い手が存在し、消化不良の心配はなさそうだ。

Tビルやレポなどリスクの低い短期の証券に投資するMMFは、7月1日時点で運用資産総額が過去最高の7兆4000億ドルに達しており、Tビルの供給が増えたとしても消化する態勢が整っている。

トランプ大統領の看板政策である大規模減税などを盛り込んだ「1つの大きく美しい法案」の成立を受けて連邦政府の債務上限は2週間前に5兆ドルほど引き上げられて41兆1000億ドルとなった。短期金融市場調査会社ライトソンICAPのデータによると、減税・歳出法が施行される前の7月3日時点で財務省の運用資金残高は3130億ドルに減少していた。

Tビルは、安全かつ流動性の高い資産として果たす役割を踏まえると、金融市場と幅広い経済にとって極めて重要な証券であり、政府にとっては資金調達の主要なツールだ。

ベセント財務長官はこれまで、政府の資金調達に関し、現在の金利水準で長期債の発行を増やすのは道理にかなっていないと主張。米連邦準備理事会(FRB)は昨年12月以降、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利を4.25-4.50%に据え置いている。

JPモルガン・チェース、バークレイズ、TDセキュリティーズは向こう1年半にわたるTビルの発行額を9000億-1兆6000億ドルと推計しており、債務上限が引き上げられる前の当初推計から水準が切り上がった。

フェデレーテッド・ハーミーズのシニア・ポートフォリオ・マネジャー兼政府流動性グループ責任者、スーザン・ヒル氏は「財務省から大量の証券が発行されるようだが、われわれはそれを歓迎するとともに、消化するのに全く問題は起きないと感じている」と述べた。

<2023年より状況はまし>

向こう1年半の1ビル発行額の銀行推計は、2年前の債務上限引き上げ後と比べると、突出した水準ではない。23年6月からの3カ月間で財務省は1兆1000億ドルのTビルを発行している。当時、財務省の資金残高は230億ドルにまで減少していた。

ライトソンICAPのチーフエコノミスト、ルー・クランドール氏は、財務省は23年当時よりかなり強固な位置付けにあると指摘。「債務上限を巡る議会での審議が今回は限界まで難航する事態とはならなかったため、財務省の資金残高は当時より3000億ドルほど多かった」と話した。

銀行は向こう5カ月間のTビル発行額を6500億-8300億ドルと推計している。

<リバースレポ残高が減少>

減税・歳出法案の承認を受けて財務省は8日、4週間物Tビルと8週間物Tビルの入札額をぞれぞれ250億ドル増と予想より引き上げ、計1500億ドルとした。同省はまた、今週に予定される総額2250億ドルとなる3回のTビル入札も発表した。

これらの増額は、7月のTビル入札の規模を調整する動きを総括している公算が大きい。

TDセキュリティーズの米金利ストラテジスト、ジャン・ネブルジ氏は「多くのMMFが(債務上限の制限が理由で)8月のTビルのような期限の証券を回避してきたため、これらの証券は極めて順調に消化されるだろう」と語った。

だが警戒すべき要因もある。FRBの翌日物リバースレポ(RRP)残高はピーク時の2022年12月には2兆5000億ドルだったが、今年7月11日時点では1820億ドルにまで減少している。MMFは余剰資金をRRPに預け入れている。

市場参加者は、RRPに預け入れられた余剰資金がなければ、MMFはどのように追加の米国債を吸収できるだろうかと疑問視している。

だがアナリストは、MMFは通常のレポからTビルへと資金を配分し直す公算が大きいと話している。JPモルガンの調査資料によると、レポ取引の残高がMMFの総資産に占める比率は37%に上昇している。

フェデレーテッド・ハーミーズのヒル氏は「MMFのレポ市場への全体的な投資比率は依然として非常に大きく、Tビルに価値があるのなら、通常のレポ取引からTビルへと資金を移す判断が増える」と話した。3カ月物Tビルの利回りは現在4.353%で、担保付翌日物調達金利(SOFR)の4.31%より高い。

アナリストはまた、MMFが投資家への売り込みを続けることも運用資産を拡大する原動力になり、それによってTビルに投資する資金が増えると説明している。

バークレイズの米金利ストラテジスト、サミュエル・アール氏によると、MMFの運用利回りは銀行預金金利よりも170ベーシスポイント(bp)ほど高く、利回り差は歴史的な水準に拡大している。同氏は、銀行の預金・貯蓄口座に10兆ドルもの資金を預け入れている家計は資金を預金からMMFへと動かし続ける可能性が高いと話した。

ロイター
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