最新記事

アメリカ政治

ハイチ大地震はオバマの「カトリーナ」

ハイチの人道危機は、ブッシュ政権が対応を誤ったハリケーン・カトリーナ以上の難題だ

2010年1月14日(木)15時51分
ハワード・ファインマン(ワシントン支局)

厳しい試練 ハイチ救援でオバマはブッシュの二の舞を避けられるか(写真は被災翌日の1月13日、ポルトープランス) Eduardo Munoz-Reuters

 政治の神様は、皮肉っぽい正義感をもっている。国民がある問題の解決策として大統領を選ぶと、その問題をさらに厳しくした試練をその大統領に与える。

 バラク・オバマ大統領に対しても、政治の神様はまさにそんな試練を与えている。
 
 オバマはイラク戦争を終結させるために大統領に選ばれたのに、アルカイダやアフガニスタンなど各地にいるアルカイダの協力者との泥沼の戦争にどっぷり浸かっている。アメリカを経済危機から救うために大統領に選ばれたのに、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)や急成長中の小さな「フロンティア市場」が勢力を拡大する世界経済において、アメリカが衰えていく現実に向き合わなくてはならない。

 そして、今度は1月12日に発生したハイチの大地震だ。

 オバマが当選した一因に、ハリケーン・カトリーナへのブッシュ政権の対応に対する激しい嫌悪感があった。だがオバマは今、ハイチでそれ以上に壊滅的で複雑な人道危機に直面している。

人種的要因への配慮も不可欠

 皮肉はさらに続く。カトリーナへの対応で問題となった人種的要因は、中米の小国ハイチでも顕著だ。カトリーナの直撃を受けたニューオーリンズでは、被災者の多くが黒人という衝撃的な映像が流れた。その影響もあって、ジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)は、ごくわずかしかなかった共和党内の穏健派の支持を失った。

 ハイチの大地震でも、似たような人種問題という脈絡のなかで、オバマ政権の能力と慈悲深さが試される。しかも、現地のインフラ事情はニューオーリンズよりずっと劣悪だ。

 オバマも側近も、そうした事情は理解している。オバマは地震の翌朝、アメリカがハイチの壊滅的な事態の打開に尽力すると力強く語った。

 オバマ政権は今後も、公式声明を次々と発表し、救助活動に乗り出すだろう。国防総省は軍艦や米兵の派遣も含め、国際的な救援活動のサポートに深く関与するだろう。

 オバマとラーム・エマニュエル大統領首席補佐官は、ハイチの実情を常に注視するだろう。そして、オバマ政権がハイチの惨状を改善するために何をしたのか(しなかったのか)を、メディアは検証するだろう。

 ブッシュは、カトリーナへの対応の遅れを批判された米連邦緊急事態管理庁(FEMA)長官のマイケル・ブラウンを「すばらしい仕事ぶりだ」と褒め称えて問題になった。オバマは、指揮系統にブラウンのような無能な担当者を入れたりはしないだろう。そして、本当にそうでないかぎり、誰かに対して「すばらしい仕事ぶりだ」と言わないはずだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国GDP、第2四半期は5.2%増に鈍化 底堅さも

ワールド

トランプ氏の「芝居じみた最後通告」 ロシアは気にせ

ビジネス

焦点:来たる米Tビル大量発行、今後1年半で1兆ドル

ワールド

アングル:米政権の財政運営「視界不良」、情報不足に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 5
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 6
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 7
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 10
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中