最新記事

医療保険改革

国民を欺くオバマのトリック

「医療費を抑制して財政赤字を削減する」というばら色の未来を語るオバマだが、現実は正反対

2009年11月17日(火)18時36分
ロバート・サミュエルソン(本誌コラムニスト)

Brian Snyder-Reuters

「医療保険改革」という誤った名称で呼ばれる一連の騒動は、まったくばかげている。

 高齢化と制御不能な医療費のせいで、アメリカが今後ずっと巨額の財政赤字に苦しむ見込みであることは周知の事実だ。壊滅的な経済危機から徐々に立ち直りはじめたアメリカ社会には、あるコンセンサスが広がっている。

 それは、景気回復のブレーキとなる急激な赤字削減は避けるべきだが、将来の巨額赤字を回避するために医療費を抑制し、財政支出を抑える長期的な政策を取るべきだというもの。バラク・オバマ大統領と経済に詳しい側近たちも、口をそろえてそう主張する。

 ところが実際には、オバマ政権は正反対の方向へ向かっている。彼らが進める医療保険制度の全面的な見直しは、ほぼ確実に事態をさらに悪化させる。

 保険加入者と彼らが享受するサービスを際限なく増やす改革によって、財政赤字は拡大する一方、医療費の抑制は期待できない。オバマ陣営は自身の露骨な言動不一致を意に介していないようだ。しかし彼らは矛盾する複数の目標を達成するために、自身を欺き、国民に嘘をついている。

改革がもたらすメリットは限定的

 医療保険改革を推進する動きは、この改革が道徳的に正しいという誤解を前提としている。あらゆる人が基本的な医療を受けられるようにすべきだという考え方が、賛同を集めるのは理解できる。確かに、誰もが医療保険に加入できれば理想的だから、そうした目標は公益にかなう崇高な理念とみられやすい。

 だが、この前提は2つの理由で間違っている。まず、アメリカが取り組むべき目標はほかにもたくさんある(将来の経済危機を防ぎ、巨額の財政赤字や重税が経済と若者に与える打撃を最小限にすることなど)。医療保険改革を推進することで、こうした目標が犠牲になる。

 もう一つの理由は、「改革」のメリットが誇張されすぎていること。無保険になる恐怖から多くのアメリカ人が解放されるのは確かだが、もっと安上がりな手法でそうした不安を軽減することは可能だ。

 しかも、現在保険に加入していない人が被る恩恵は微々たるものだ。彼らはすでにかなりの医療サービスを受けており、新制度によってもたらされるメリットは概して限られている。

 改革案を売り込むためのご都合主義の嘘を目の当たりにすると、医療保険改革が道義的に優れているという見せ掛けなど吹き飛んでしまう。オバマは財政赤字の増大につながるような法案には署名しないと語っているが、その言葉を実行するには、コストに関する条項を法案から外すしかない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米中貿易巡る懸念が緩和

ビジネス

米国株式市場=大幅反発、米中貿易戦争巡る懸念和らぐ

ビジネス

米国株式市場=大幅反発、米中貿易戦争巡る懸念和らぐ

ビジネス

米労働市場にリスク、一段の利下げ正当化=フィラデル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中