最新記事

米外交

ロシアで露呈した「オバマ教」の限界

大統領個人の魅力に依存するオバマ政権の常套手段は親米国にしか通用しない

2009年7月9日(木)19時41分
デービッド・ロスコフ(カーネギー国際平和財団客員研究員)

冷たい空気 モスクワ郊外にある首相公邸でプーチンと会談するオバマ(7月7日) Alexei Druzhinin-RIA Novosti-Reuters

 バラク・オバマ米大統領のロシア訪問は失敗だったようだ。ドミトリー・メドベージェフ大統領とウラジーミル・プーチン首相との会談は張り詰めた雰囲気で、身振りもぎこちなかった。

 モスクワの新経済大学院で行った演説の受けも悪く、現地の報道陣はアメリカのロックスター大統領の訪問に退屈しているようだった。そして現実的な成果は......何もなかった。

ロシアに伝わらなかったオバマのスター性」と題した7月8日付のニューヨーク・タイムズ紙の記事は、その理由をいくつか解説している。ロシア人は疑り深く、そもそもアメリカの政治家を信頼していない。演説の内容もロシア語には訳しにくかった。あるロシア市民に言わせれば、「ロシア人は世界で最も賢明」だから、オバマに関心しないのだという(ロシアが政治的にも経済的にも苦境に陥っていることは関係ないらしい)。

 大統領選キャンペーン中からオバマを後押ししてきた「勝利の公式」は、どうやら崩れてきたようだ。もはやオバマの存在そのものをアピールし、妻のミシェルと2人の娘を前面に押し出すだけでは十分とはいえなくなっている。

「オバマ効果」が通じないのは、ロシアに限ったことではない。もちろん魅力的で理知的で若いアメリカ大統領は、今でも世界の多くの地域でメディアや市民、政治家たちから熱狂的に受け入れられている。

 しかし、オバマ効果が通じない場合にどうなるかが次第に明るみになってきた。「大統領こそがアメリカの政策だ」とPRしてきたオバマ政権の欠点が浮かび上がってきたのだ。

オバマ・ブランドが通用しない相手

 アメリカ社会は変わりつつあり、自分がその証拠だ――オバマはそう語ったことがある。彼はこれまでニュースの主役であり、人々の代弁者であり、新しいアメリカの声であり続けてきた。

 今の政権が前政権の政策をそのまま受け継ぎながらも、目新しく見せることができたのは「オバマ・ブランド」の包装紙で包みなおしたおかげだ。他国との関与政策などブッシュ政権との違いがある分野では、前任者との違いがより強調された。オバマは演説で何が新しくなったのかを説明し、新生アメリカとの対話の可能性を売りにしてきた。

 この方法は、オバマのこれまでの外遊では大いに機能してきた。目新しさが重視され、ブッシュ前政権との痛々しい時代を脱しようとする機運が盛り上がっていたからだ。G20(20カ国・地域の首脳会議)でも、米州首脳会議(米州サミット)でも、エジプト訪問でも、「大統領が政策だ」という方針は成功しているように見えた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECBが金利据え置き、3会合連続 今後の金利動向示

ビジネス

日銀の利上げ見送り、極めてリーズナブルな判断=片山

ビジネス

日産の今期2750億円の営業赤字に、米関税が負担 

ビジネス

米財務長官、年内再利下げに疑問示したFRBを批判 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面に ロシア軍が8倍の主力部隊を投入
  • 4
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 5
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 6
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理…
  • 7
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 8
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 9
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 10
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 8
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 9
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 10
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中