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オバマ「イランと対話」は幻想だった?

対イラン強硬路線に転じる一方、駐シリア大使の復帰を決めたオバマの新戦略

2009年6月25日(木)17時30分
ローラ・ロゼン(政治ジャーナリスト)

ジレンマ 「弱腰」との批判を受けたオバマはイラン政府のデモ弾圧を激しい口調で非難した(6月23日) Jason Reed-Reuters

 わずか1カ月でなんという変わり様だろう。5月には、オバマ政権はイランの最高指導者アリ・ハメネイ師に書簡を送り、対話を望む姿勢をあらためて伝えたとされる。さらに6月上旬には、アメリカの独立記念日の公式パーティーにイラン人外交官を招くよう、国務省が各国のアメリカ大使館に通達を出した。

 だが、宥和政策の日々は過ぎ去った。ホワイトハウスのロバート・ギブス報道官は6月24日、「アメリカはイラン人外交官の招待を撤回した」と発表。イラン側から招待状への返事が届いていなかったことも認めた。「過去の経緯を考えれば、出席の返事がなくても驚くことではないと思う」

 イランに接近しようとする欧米の試みが暗礁に乗り上げたことを示すサインはほかにもある。ギブスの発言の前日には、イタリアが25日に始まるG8(主要8カ国)外相会合へのイランの招待を取り消した。この招待についても、イランからの返事はなかったとされる。

 バラク・オバマ大統領は23日の記者会見で、イランへの関与政策は短期的には進展しないだろうとの見通しを示した。「この数週間の出来事は、アメリカにとっては明るいニュースではない」と、オバマは言った。

「国際社会は事態を注視している」と、オバマは続けた。「イラン政府は、反対勢力への対応の仕方がイランの将来だけでなく諸外国との関係にも影響することを理解すべきだ」

シリアとイランを競わせる作戦

 オバマ政権が23日、駐シリアのアメリカ大使を4年ぶりに復活させると発表したのも偶然ではなく、アメリカの新たな対イラン戦略の表れだと、中東問題の情報筋はみている。

 この点について問われた米政府高官は、「基本的にはそのとおりだ」と答えた。中東問題の専門家は、ワシントンポスト紙による大使復帰報道の情報源は、国務省ではなくホワイトハウスのようだと、中東問題の専門家は指摘している。

「イランとシリア両国に関与したいと同時に、両国を競わせたいというのがオバマ政権の戦略だと思う」と、シリア問題に詳しいワシントン中近東政策研究所のアンドリュー・タブラーは言う。「ダマスカスに大使を送ると発表することで、アメリカはシリアとイランの双方にメッセージを送っている」

アメリカがめざすゴールは変わらない

 オバマ政権のイランへの想いが冷めてきたようにみえるのは戦術上の変化の表れに過ぎず、関与政策という最終的なゴールに変わりはないと、アナリストらは口をそろえる。イラン大統領選に続く暴力行為によって「外交の必要性に変化が生じたわけではない」と、国立イラン・アメリカ・カウンシルのトリタ・パルシ会長は言う。「変わったのは(関与政策が)実現する可能性だ」

「事態が収束すれば、イランのトップが誰であろうと、アメリカはその人物と交渉しようとするだろう」と、パルシは付け加えた。「事態が収束する前に、誰が指導者かを早急に結論づけてはいけないと思う」


Reprinted with permission from "The Cable," 25/06/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

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