最新記事

米人種

口先の謝罪では、人種問題は解決できない

2009年4月7日(火)12時14分
レーナ・ケリー

サルはすべて黒人なのか

 ニューヨーク・ポスト紙は2月18日、チンパンジーを射殺した警官が「次の景気対策法案を起草する奴を見つけなきゃいけないな」と話す風刺マンガを掲載。オバマを描写した人種差別的なマンガだと非難の嵐を巻き起こした。

 この騒ぎにニューズウィークの親会社であるワシントン・ポストも不安を覚えたようだ。22日に掲載されたサルについてのユーモアあふれるコラム記事について、イラストなどが「人種のステレオタイプを思い起こさせるかもしれない」という謝罪文を同日の紙面に載せ、批判を事前に封じ込めた。

 この対応はまったくのナンセンスだ。サルの絵がすべて人種差別的なわけではない。黒人はみんなフライドチキンが好きでバスケットボールが得意という偏見があるからといって、ニワトリとバスケットボールの絵も禁じるつもりだろうか。

 私たちアフリカ系アメリカ人にとって、ひどくもどかしい状況だ。メディアは、理性的な人間なら誰も怒らないようなことについては謝罪するのに、本当に気分を害するようなことをしたときは口先ばかりの謝罪しかしない。

オバマ人気の今こそ好機

 そして、アフリカ系アメリカ人が真に求める議論はなされない。たとえば05年にハリケーン・カトリーナが米南部を襲ったとき、被災地の黒人は食料を「略奪して」いて、白人は「探し回って」いると報じられたが、こうした偏向報道はメディアで働く人間の多様性が増せば防げるのだろうか。

 「私たちはこれまで、実に多くの点で本質的に臆病者の国であったし、今もそうだ......平均的なアメリカ人は、人種について十分に話し合っていない」。エリック・ホルダー司法長官の最近の発言だ。

 彼は正しい。アメリカ人はどんな場面なら「サル」と言っても大丈夫かは何時間もかけて議論するのに、差別是正措置(アファーマティブ・アクション)や、黒人の多い都心のスラム地区における犯罪率といった重要な問題になると、とたんに口をつぐんでしまう。

 オバマの支持率が60%近い現状をみると、そろそろ少しばかりのユーモアと若干の常識をもって人種問題に対応していいのではないかと思う。人気トーク番組のホスト、ジョン・スチュワートは選挙中、「大統領になったら白人を奴隷にするつもりか?」とオバマに質問したが、お払い箱にならなかった。誰が見てもジョークだと明らかだったからだ。

 重要なのはどういった文脈で発言をするか。私自身、職場で携帯情報端末のブラックベリーを酷使している同僚に「黒人差別だ」とジョークを飛ばすけれど、誰も気分を害したりしない。

 いや、よく考えると、よくは思わない同僚もいたのかもしれない。今度からブラックベリーのジョークは控えなくては。

[2009年3月25日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用統計、4月予想上回る17.7万人増 失業率4

ワールド

ドイツ情報機関、極右政党AfDを「過激派」に指定

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中