最新記事

ビッグデータ

アメリカ式か中国式か? ビッグデータと国家安全保障をめぐる「仁義なき戦い」勃発

THE BATTLE OVER BIG DATA

2022年11月17日(木)15時01分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

5月のロイターの報道(匿名の情報源に基づく)によるとバイデン政権は、データの販売と閲覧を内容とする商取引を調査し、国家安全保障上のリスクが大きい場合に取引を差し止める権限を司法省に与えることを検討している。

記事によれば保健福祉省に対しても、連邦政府の資金援助の下で国民の医療・健康関連のデータが外国の敵対勢力に渡ることを防止させることが検討されている。

しかし、どのようなデータが国家安全保障上のリスクをもたらし、そのリスクにどのように対処すればいいかは、意見が分かれるところだ。ポティンジャーのような対中強硬派が指摘するリスクは確かにあるが、過度に厳しい規制を導入すればアメリカの利益が損なわれかねない。

米自由人権協会(ACLU)などは、早くもその兆候を指摘している。司法省は昨年1月、中国系アメリカ人のナノテクノロジー研究者であるマサチューセッツ工科大学(MIT)のガン・チェン教授を起訴した。中国の大学などから資金提供を受けていた事実を開示せずに、米政府の研究資金を受け取ったというのが理由だった(司法省は今年1月、起訴を取り下げた)。

アメリカの研究機関で働く中国系の科学者に圧力をかけたところで、癌研究から半導体までさまざまな分野で「逆・頭脳流出」が起こるだけかもしれない。

「政策決定に携わる人々の間では科学、特にバイオテクノロジーを安全保障問題としてみる傾向が強まっている」と、中国におけるバイオテクノロジーの発展を研究しているバッサー大学のアビゲイル・コプリン准教授は言う。「その結果、失われるものについては誰も気に掛けていないようだ」

バイオテクノロジー分野の場合、コプリンの言う「行きすぎた安全保障問題化」は、アメリカで病気と闘っている人々、アメリカの競争力、そして世界的な科学の進歩にとって明らかなリスクになる。新しい治療法の開発につながるはずの研究協力や知識の共有が阻害されるからだ。

アメリカでは報道においても、中国によるデータ収集は「アメリカ人のプライバシーへの脅威」として語られることが多い。だが世界的に見れば多くの人が、アメリカこそ最大の脅威だと考えている。

ヨーロッパの人々は、エドワード・スノーデンが13年に公表した米国家安全保障局(NSA)の大量の機密文書のことを忘れていない。この文書には、米政府が世界各国の指導者や一般市民の電子メール、ショートメッセージ、携帯電話の位置情報といった膨大な量の個人データをかき集めていたことが示されていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪総選挙は与党が勝利、反トランプ追い風 首相続投は

ビジネス

バークシャー第1四半期、現金保有は過去最高 山火事

ビジネス

バフェット氏、トランプ関税批判 日本の5大商社株「

ビジネス

バフェット氏、バークシャーCEOを年末に退任 後任
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 4
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 8
    「すごく変な臭い」「顔がある」道端で発見した「謎…
  • 9
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 10
    海に「大量のマイクロプラスチック」が存在すること…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中