最新記事

未来をつくるSDGs

水田は温暖化ガスの深刻な排出源、削減のためAWD型のコメ作りを

Changing Rice Farming

2022年3月3日(木)18時25分
オリバー・フリス(フィリピン国際稲研究所事業開発部長)、ライナー・ワスマン(同研究所元シニアサイエンティスト)、ビヨルン・オレ・サンダー(同研究所シニアサイエンティスト)
ベトナム・ハノイ郊外の水田

節水型稲作を採用しても収穫量は変わらないとされる(ベトナム・ハノイ郊外の水田) NGUYEN HUY KHAMーREUTERS

<田んぼはメタンを生成しやすく、そのメタンは「地球温暖化係数」がCO2の28倍も高い。ベトナムで導入された「節水型稲作」なら、農家の利益増まで期待できる>

青々とした水田や、芸術的なほど美しい棚田は、アジア諸国では食を超えた文化の一部になってきた。だが、その水田が、温暖化ガスの深刻な排出源になっている。

その温暖化ガスとは、メタンだ。

田んぼに水が張られて、酸素の少なくなった土壌はメタンが生成されやすくなる。そして大気中に排出されたメタンは、CO2より寿命は短いものの、地球温暖化係数(GWP)は28倍も高い。

折しも世界では、2030年までに20年比で世界のメタン排出量を30%削減する「グローバル・メタン・プレッジ」が発足したばかり。アメリカとEU主導で始まったこのイニシアチブには、日本を含む100カ国以上が参加する。

その背景には、メタンの排出量削減が地球の気温上昇を1.5度に抑える目標達成のカギになるという意識の高まりがある。

そして水田は、人為的なメタン排出の12%を占めるから、その削減は30%削減のカギになる。

方法はいくつかある。

例えば節水型稲作(AWD)は、田に水を常時張っておくのではなく、土壌の水分が一定以下に低下したときに水を張る「間断灌漑(かんがい)」だ。これを土壌に合った管理方法と組み合わせると、水田のメタン排出量は30~70%減らせるという。

それだけではない。AWDは水や化学肥料の使用量を減らす効果もあるから、農家にとってはコスト削減につながる。

実際ベトナムでは、AWDと適切な管理技術を採用したコメ農家の利益が、13%増えたという報告もある。

国際稲研究所(IRRI)などが最近実施したアセスメントによると、ベトナムのメコンデルタの稲作地域全体でAWDを採用すれば、CO2相当物を年間560万トン減らせることが分かった。これは乗用車290万台を削減するのに等しい数字だ。

しかし、アジアのコメ農家の多くは小規模自作農家で、先端農業技術の知識は乏しく、低炭素技術の採用に必要な資金もないことが多い。

そこで政策当局者や企業や投資家にいくつか提案をしたい。

まず、国の温暖化ガス排出削減目標に、水田から排出されるメタンを含めること。

パリ協定に提出された各国の削減目標で、メタンに言及した国は、ベトナムなどひと握りだった。コメを大量に消費する国が、もっとこの問題を認識する必要がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

川崎重社長、防衛事業の売上高見通し上振れ 高市政権

ワールド

米16州、EV充電施設の助成金停止で連邦政府を提訴

ワールド

中国最新空母「福建」、台湾海峡を初めて通過=台湾国

ワールド

ウクライナ安全保証、西側部隊のロシア軍撃退あり得る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 7
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中