最新記事

科学後退国ニッポン

日本で研究不正がはびこり、ノーベル賞級研究が不可能である理由

JAPAN’S GREAT SETBACK

2020年10月28日(水)16時30分
岩本宣明(ノンフィクションライター)

毎年のように繰り返されてきたノーベル賞受賞のお祭り騒ぎの陰には、論文不正の蔓延という闇がある。お祭り騒ぎを続けるためにも、不正論文を少なくするためにも、研究現場の困窮と疲弊の解決が不可欠だ。

もちろん課題は多過ぎて一朝一夕に解決はできないが、短期的には、まず研究費の配分方法を見直すことが急務だ。競争的資金の偏重はもともと、少ない原資を効率的に活用することを目的としていたが、成果は上がっていない。そればかりか研究者から時間を奪い、さらに短期的な成果が期待できる研究が採択される傾向が強いため、研究から長期的な視野も奪っている。このような状況では、将来のノーベル賞につながるような研究は不可能だ。競争的資金の予算を減らす代わりに、研究者が制約を受けずに自由に使うことができる研究費を増額する。その早急な政策変更が求められる。

長期的には制度疲労を起こしている大学制度そのものの見直しも必要だ。教育と研究を両輪とする大学制度は、ごく一部の裕福なエリートだけが進学できた時代に設計されたものだ。大学には学問が期待され、研究者は将来の学者を育てればよかったし、学生は研究者の背中を見て勝手に育った。しかし、今は違う。進学率が6割に迫り大衆化した今、大学には、学者ではなく、社会に出て労働力となる人材を育てる教育機関としての役割が期待されている。それを研究者に求めるのは酷だ。手取り足取りで学生を育て、かつ研究でも成果を上げることなど無理な話だ。

研究者の疲弊の原因は研究費だけでなく、得意とは言えない教育の負担が過重になっていることにもある。大学はとうの昔に研究機関と教育機関に分離する時期に来ている。

[執筆者]
岩本宣明(いわもと・のあ)
1961年生まれ。文筆家・ノンフィクションライター。主な著書に『科学者が消える――ノーベル賞が取れなくなる日本』(東洋経済新報社)、『新聞の作り方』(社会評論社。文芸春秋社菊池寛ドラマ賞受賞)、『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこりクック諸島』(NTT出版)、『がんとたたかう心の処方箋』(光進社)、『ホスピス――さよならのスマイル』(弦書房)など。他に共著書多数。

ニューズウィーク日本版 高市vs中国
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年1月27号(1月20日発売)は「高市vs中国」特集。台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平「断念せず」 引き続き関

ワールド

トランプ氏、27日にアイオワ州訪問 演説で生活費高

ワールド

ロシアとの高官協議、来月1日再開の見通し=ゼレンス

ワールド

トランプ氏、ミネソタ州知事と協議 地裁は移民摘発停
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 5
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 6
    「20代は5.6万円のオートロック、今は木造3.95万円」…
  • 7
    中国、軍高官2人を重大な規律違反などで調査...人民…
  • 8
    私たちの体は「食べたもの」でできている...誰もが必…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    老化の9割は自分で防げる...糖質と結び付く老化物質…
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 3
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 4
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 5
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 10
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中