最新記事

科学後退国ニッポン

日本の科学者は「給料安い」「ポンコツ多い」(一流科学者・覆面座談会)

DOCTORS IN ROUNDTABLE SESSION

2020年10月16日(金)17時40分
ニューズウィーク日本版編集部

ダーウィン 自分がどんな仕事をすることを期待されているかも、着任するまで分からなかったりします。ジョブディスクリプション(職務が明記された書類)がない。やばくないですか? 

ガリレオ 文部科学省は制度だけ海外から持ってくるね。制度を導入したから社会人博士を出せとか、年間何人が目標だとか。だから失敗する。

交付金減額でボロボロ

ニュートン 社会人博士をなぜカネで買えてしまうか。海外から制度だけを持ってきてしまうということもあるが、根本的な違いは、海外は大学が資産運用などで資産を増やしており、お金持ちであることにあるのでは。

日本の大学は海外と違い税金中心で動いている。定員を埋めて博士号取得者を出さないと国からの補助金が減る。だから優秀だろうがなかろうが学生を入れるしかなく、人材の質の低下を生む。

ガリレオ その原因のひとつは寄付文化が日本にないこと。アメリカはそれが根付いており、税制上の優遇もある。成功したら母校に寄付するというカルチャーがある。

エジソン 2004年に国立大学が法人化して国からの運営費交付金がガクっと減らされて、お金の自由度が減った。ガリレオさんは法人化の前後を見られていると思いますが、どう思われますか。ちなみに昔は大学から研究室1つあたり年間400万円ぐらいは分配していたと思うが、今は私の研究室では20万円ほど......。

ダーウィン 僕の大学ではそれよりは多いです。ただ着任初年度は研究室開設の準備費用としては全く足りませんでした。

ガリレオ 運営費交付金減額はだんだんボディーブローのように効いてきているね。それに東大などメジャーな大学とそれ以外の差が非常に広がっている。地方大の教授だと年間10万円しかもらえないとか、信じられないことが起こっている。それが成功しそうなところばかりに金を投入する「選択と集中」だけど、悪い言葉だ。

「選択と集中」とオキアミ

ニュートン 「選択と集中」は本当にダメですね。サイエンスの研究には大きな金が必要で、100万円、200万円はすぐ飛んでしまう。500万~600万円の機器を買うのも当たり前。海外では教員着任前に既に設備がそろっているが、日本ではお金を工面して買わなければいけない。お金が研究に回せない。

ガリレオ 大きな金を投下するには選択と集中は必要かもしれない。しかしやっぱり撒き餌も必要で、成功するかどうかわからない研究に、失敗してもいいからと、少額の金を幅広くばらまくべきだね。昔の運営費交付金はそうだったし、(審査によって交付を決める)科学研究費だって多くはそうすべき。

生態系と一緒で、まずオキアミがあって、それを食べてイワシ、クジラが育つ。オキアミには撒き餌を、クジラには選択と集中を、だ。ありとあらゆることに選択と集中と言って、わずかな金に「失敗したらいかんぞ」みたいなことを言うからダメなんだよ。

<2020年10月20日号「科学後退国ニッポン」特集より>

※座談会後編に続く:科学者と名乗ると「外国ではカッコいいと言われる」(一流科学者・覆面座談会)

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米財務省、中長期債の四半期入札規模を当面据え置き

ビジネス

FRB、バランスシート縮小ペース減速へ 国債月間最

ワールド

米、民間人保護計画ないラファ侵攻支持できず 国務長

ビジネス

クアルコム、4─6月業績見通しが予想超え スマホ市
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中