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コロナ特効薬&ワクチン、米中日欧で進む研究開発の最前線を追う

THE RACE FOR ANSWERS

2020年5月22日(金)17時15分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

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ウクライナの首都キエフで赤外線放射温度計で体温を測定される男性(3月) OVSYANNIKOVA YULIA-UKRINFORM-BARCROFT MEDIA/GETTY IMAGES

迅速なゲノム解読技術は、世界に広がったウイルスの変異を調べる上でも役に立っている。「最近、シアトルの感染者のウイルスを調べたところ、1月半ばにアメリカで発生した感染者第1号の型と一致することが分かった」と、ラスムセンは言う。一方、ニューヨーク・タイムズ紙の報道によると、ニューヨークで広がっているウイルスの型は中国からヨーロッパ経由で入ってきたとみられている。

こうした研究により、各国の公衆衛生当局は早い段階から新型コロナウイルスの驚異的な感染力に気付いてはいたが、感染の速さに対応できない国もあった。現在、中国では感染の収束を迎えたが、アメリカではまだ感染のピークが見えず、集中治療室が呼吸困難者であふれ返らないようにすることが最重要課題だ。

新型コロナウイルスは、とりわけ肺を攻撃することが分かっている。すると免疫システムが反応して、白血球などの免疫物質が大量に肺に送り込まれる。重篤なケースでは、これにより酸素を血液に取り込む肺胞が塞がってしまい、呼吸が苦しくなる。このような場合、人工呼吸器で肺のまだ機能している部分に高濃度酸素を送り込み、肺を休ませることで、ウイルスの攻撃を乗り切るのに必要なエネルギーを蓄える治療方針が取られるのが一般的だ。

だが、人工呼吸器の数は危険なまでに限られている。アメリカの場合、重篤な肺炎患者(推定240万〜2100万人に達する見込み)に対応する設備を備えた病床は全体の10分の1以下とみられている。

効果のありそうな抗体を選ぶ

抗ウイルス薬があれば、人工呼吸器が必要になる時間を減らすことができる。このうち有望視されているのは、免疫反応を抑えて肺の機能を維持するタイプの薬だ。

例えば、大阪大学と中外製薬が関節リウマチ治療薬として共同開発したアクテムラ(一般名トシリズマブ)。中国科学技術大学付属第1病院(安徽省立病院)と阜陽市第2人民病院は、アクテムラを21人の重篤患者に使用したところ、全員が数日で平熱に戻り、他の全ての症状も「著しく改善した」と報告。最終的に、19人が投与から3週間以内に退院した(中外製薬は現在、新型コロナ肺炎への適用拡大に向けた臨床試験を進め、年内の承認申請を目指している)。

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(ニューヨーク州)が重症患者向けの治療効果を期待しているのは、慢性関節リウマチ治療薬のケブザラだ。ケブザラの主成分は免疫細胞の表面にある小さなタンパク質分子インターロイキン6(IL6)に結合し、その働きを阻害する抗体だ。IL6には免疫反応を強化する役割があるが、過剰な炎症を引き起こす原因にもなる。

「呼吸の能力が失われることで患者は命を落としている。肺が炎症だらけになるからだ」と、リジェネロンの社長兼最高科学責任者を務めるジョージ・ヤンコプロスは言う。「ここで問題となるのは炎症を引き起こす原因だ。その働きを食い止めることができれば、肺の状態は基本的に落ち着く。そして(免疫)細胞は肺を離れ、問題を起こすような物質を作らなくなる」

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