最新記事

コロナ特効薬を探せ

コロナ特効薬&ワクチン、米中日欧で進む研究開発の最前線を追う

THE RACE FOR ANSWERS

2020年5月22日(金)17時15分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

PHOTO ILLUSTRATION BY RYAN OLBRYSH FOR NEWSWEEK, JAMES STRACHAN-PHOTODISC/GETTY IMAGES (INSET)

<世界各国の研究機関や企業が急ピッチで進める研究開発──実用化には多くの関門があるが、有効な薬の事例が各地で報告されている。本誌「コロナ特効薬を探せ」特集より>

新型コロナウイルス感染症が今のように世界に広がるずっと前から、感染症の専門家たちは、いずれこのような事態が起こると警告し続けてきた。

20200526issue_cover200.jpg何しろ、その病原体は感染力と致死力が高いだけでなく、研究論文もワクチンも治療薬も存在しない。今のところ、私たちが知る最も効果的な対策は原始的な方法──隔離や社会的距離戦略といった、感染者(または感染が疑われる人)から距離を置くというものだ。

人間が新しい病原体にいかに弱いかは、今回の新型コロナウイルスの流行で痛いほど明らかになった。アメリカの感染者は140万人を超え、死者は8万5000人に達した。WHO(世界保健機関)は、アフリカで数千万人に感染の恐れがあるとしている。

これほど医学が発達した時代に、治療法が存在しないという事実は、ある意味で驚異的なことだ。現代の医学は、遺伝子工学や機械学習やビッグデータによって飛躍的な発展を遂げている。それなのに猛スピードで広がる新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に、私たちは太刀打ちできないかに見える。

だが、人間は決して手をこまねいていたわけではない。

中国湖北省の省都・武漢で、通常の肺炎とは様子が異なる肺炎が目立ち始めたのは昨年12月半ばのこと。中国当局は年明け早々に病原体の調査に乗り出し、複数の患者の検体を調べた。すると1週間もしないうちに新型コロナウイルスの分離に成功し、5日後にはそのゲノムの塩基配列を解読して、データをインターネット上で全世界に公表した。

このデータを基に、世界各国の研究機関が新型コロナウイルスの分離に次々と成功。さらにウイルスの立体構造が再現され、これを解析して、既存の医薬品で治療薬になりそうなものを探す動きが始まった。一方、病理学者は分子生物学のツールを使って、ウイルスを包むタンパク質の殻を破る方法を探った。

「息をのむようなスピードで研究が進んでいる」と、米コロンビア大学公衆衛生大学院のアンジェラ・ラスムセン研究員は語る。「これまでにないペースだ」

ゲノム解析で研究が迅速化

世界各国で感染者が爆発的に増えるなか、研究者が全力を注いでいるのは、有効な抗ウイルス薬の発見とワクチンの開発だ。

近年、トップクラスの研究所では、ウイルスのゲノムを解読するシステムを「標準装備」している。新型コロナウイルスが、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルスと、2017年に雲南省の洞窟で見つかったコウモリのコロナウイルスに非常によく似ていることが分かったのもそのためだ。おかげで治療薬やワクチンの研究を、ゼロから始める必要がなくなった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ

ワールド

アングル:反攻強めるミャンマー国軍、徴兵制やドロー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 5
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中