最新記事

テクノロジー

「PCはカウンター・カルチャーから生まれた」服部桂の考える、人間を拡張するテクノロジー

2019年12月19日(木)17時30分
Torus(トーラス)by ABEJA

服部)権威の独占物として人間を支配するのではなく、人間の能力を拡大するためのコンピューターを、というそれまでと真逆の思想が実現した象徴的なできごとが1968年、サンフランシスコで開かれた、マウスの発明者でもあるダグラス・エンゲルバートによるoN-Line System(NLS)という、現在のネットにつながったパソコンを彷彿とするようなデモでした。


1968年12月9日、NLSは初めて一般に公開された。(中略)観客を驚かせたのはまず、コンピューターが数字を処理するものからコミュニケーションや情報検索のツールになったこと、それにたった一人の利用者が独占的に必要な情報をインタラクティブに操作する使われ方をしていたということだ。初めて、本当の意味でコンピューターがパーソナルな使われ方をされたのだ。(ジョン・マルコフ著・服部桂訳『パソコン創世「第三の神話」』)

服部)サイケデリック・カルチャーを代表する作家で『カッコーの巣の上で』を書いたケン・キージーは、スチュアート・ブランドとこのNLSを見にいっています。彼はパーソナル・コンピューターに触れたときの印象を「おれはコンピューターにゾクッと来た。これがこれからのフロンティアじゃないか。中毒性もなく、したいことの何倍ものことができる」と自著で綴っています。


デモを見たキージーは驚きのあまり眼を見開いたまま、「これこそ、LSDの次に来るものだ」と言うと、大きくため息をついた。コンピューターが作り出す情報のバーチャル世界に圧倒され、これが脳を破壊してしまうドラッグを使わなくても、LSDのように人間の意識を高める何かであることに気付いてショックを受けたのだ。 (マガジン航:聖なるテクノロジー〜『テクニウム』の彼方へ

服部)パーソナル・コンピューターはいまや当たり前に、私たちの仕事仲間、相談相手、遊び相手になりました。ネットで他人とつながって様々な知識やデータを共有できるようにもなった。60年代の人々が理想に描いた、個人の能力を伸ばすため進化した道具が、半世紀経ってやっと皆のものになったといえます。

テクノロジーは身体機能の「拡張」である

Torus_Hattori3.jpg


コンピューターは本来、ただの計算を速く行うマシンではなく、人間を人間以外のものを使って再現するテクノロジーだということです。車は人間の足を機械化したものだし、ドライバーは指の延長線となるものだったが、コンピューターは人間全般の能力を扱うものになるんじゃないかということです。このトレンドを大げさに言うならば、コンピューターが人間の存在を問い直すとでも。(服部桂著『VR原論ー 人とテクノロジーの新しいリアル』)

服部)人はもっと生活を便利にしたいという欲求から、テクノロジーを使い、自分たちの身体的能力以上の成果を引き出してくることで、豊かになり寿命も延びました。テクノロジーの定義はあいまいですが、人間にまつわる言葉から石器からコンピューターまでのありとあらゆる有形無形の人工的な行動意図を「拡張」したものがテクノロジーだといえます。石器は手の、はさみは指の、望遠鏡は目の、車は脚の「拡張」といった具合に。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、アルジャジーラの活動停止 安全保障の脅

ビジネス

英シェル株主は気候対策強化案に反対を、グラスルイス

ワールド

中国主席、5年ぶり訪欧開始 中仏関係「国際社会のモ

ワールド

ガザ休戦交渉難航、ハマス代表団がカイロ離れる 7日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中