最新記事

テクノロジー

「PCはカウンター・カルチャーから生まれた」服部桂の考える、人間を拡張するテクノロジー

2019年12月19日(木)17時30分
Torus(トーラス)by ABEJA

Torus 写真:宮下マキ


社会を大きく変えた情報テクノロジーが普及した時代をジャーナリストとして40年もの間、見つめてきた人がいる。

服部桂(はっとり・かつら)さん。

私たちが普段使うパーソナル・コンピューターが生まれた時代の空気や影響を与えた人々、それらも含めたテクノロジーの進化をどうみているのかを自在に語ってもらった。自著、コラム、訳書を織り交ぜながら紹介する。

服部)私は1951年生まれで、団塊のちょっと後で戦後の若者文化の第一波を経験した世代です。戦後、社会とテクノロジーが劇的に変わる状況のなかで育ってきた、ある意味ラッキーな世代でした。

この時代にメディアやテクノロジーに目覚めるきっかけとなった「事件」がいくつかありました。最初の大きな事件は、地球のまわりを国境も関係なく飛び回る、ソ連が打ち上げた世界初の人工衛星「スプートニク」の打ち上げ(1957年10月4日)です。それは家と学校がすべてだった子どもが、自分の想像をはるかに超える「世界」「地球」「宇宙」という大きな存在の一部であることを意識した瞬間でした。

また東京オリンピックを翌年に控えた1963年11月23日、日米間で初のテレビの衛星中継(当時は宇宙中継と呼ばれていた)の実験が始まった日も衝撃でした。 早朝から長時間、準備のためのテスト用に砂漠の映像が延々と流されていて、画面が切り替わって最初に流れたのが、本来なら中継開始の挨拶をする予定だったケネディ大統領がダラスで撃たれたという一報だったのです。

それまで海外の映像といえば、数カ月遅れで上映されるニュース映画が主だった。ところが、テレビという電子メディアによって、地球の裏の「現在」の情報がリアルタイムに流れたのです。その時間と空間の差が消えたような感覚は、それまでに感じたことのない自分の世界観を覆すような不思議なものでした。

カウンター・カルチャーという思想

私が思春期を過ごした1960年代はベビーブーマーによる「カウンター・カルチャー」(対抗文化)が米西海岸を中心に広がり、旧来の価値観が大きく変わった時代でもありました。


若者はロックとドラッグで親世代の世界に対抗するカウンターカルチャー運動を巻き起こし、「情報は自由になりたがっている」と主張するスチュアート・ブランドが1968年に出した雑誌「ホール・アース・カタログ」が、ドロップアウトしたヒッピーたちの生活を地球規模の意識で目覚めさせる時代のバイブルとなり、この雑誌の最終号に書かれた当時の若者の生きざまを象徴するような 「Stay Hungry, Stay Foolish」という言葉は、スティーブ・ジョブズが2005年にスタンフォード大学の卒業式で、自分の人生を決定づけた言葉として引用することで、世界的に有名になった。(服部桂著『VR原論 人とテクノロジーの新しいリアル』)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米中堅銀、年内の業績振るわず 利払い増が圧迫=アナ

ビジネス

FRB、現行政策「適切」 物価巡る進展は停滞=シカ

ビジネス

英インフレ、今後3年間で目標2%に向け推移=ラムス

ビジネス

ECB、年内に複数回利下げの公算=ベルギー中銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中