最新記事

危ないIoT

IoT機器メーカーは消費者のセキュリティーを軽視している

GUESS WHO'S LISTENING?

2019年11月6日(水)11時05分
アダム・ピョーレ

ジャーと仲間たちは2016年、デスクトップコンピューターだけでなく、監視カメラやワイヤレスルーター、スマート家電などもハッキングした。ここまではツォイと同じだが、ジャーたちはそれで終わりにせず、「Mirai」と呼ばれるマルウエアを送り込んだ。

これによりゾンビのように遠隔操作された機器は、最初の攻撃20時間で6万5000台にも上った。乗っ取られた機器の総数は60万台に達したという推計もある。

彼らは手近なライバルを倒すだけでは物足りなくなり、フランスの大手インターネットサービスプロバイダーのOVHなども攻撃した。Mirai(日本語の「未来」から命名された)の作成者として米司法省に起訴されたジャーたち3人は、それぞれ5年間の保護観察処分と罰金12万7000ドル、FBIのサイバー犯罪捜査への協力を含む2500時間の社会奉仕を義務付けられた。

現在36歳のツォイはレッド・バルーン・セキュリティーのCEOとして、サイバーの世界で身を守る方法を企業に助言している。Tシャツにビーズのネックレスを着け、髪をお団子状にまとめた姿で、ハッキング関連の会合で講演することも多い。

サイバーセキュリティーを請け負う企業は、資金力のある大手企業のために、DDoS攻撃からサーバーを守る手法を提供する。しかしIoT機器を作る企業は、私たちユーザーを守るためには、ほとんど何もしていない。

IoTの危険が軽視されている理由は、急成長しているIoT市場でいち早くシェアを獲得したいという「ゴールドラッシュの精神」だと、ツォイはみる。

ここ5年ほど業界は過熱気味で、インターネットへの接続機能を搭載した機器を、少しでも早く市場に投入しようと躍起になっている。セキュリティーの問題は後で解決すればいい──それどころか、全く考えていない企業もある。

「セキュリティー対策には時間と資源が必要だ」と、ツォイは言う。しかしスタートアップと、彼らに出資するベンチャーキャピタルとしては、「市場が気に入りそうなIoT機器を今すぐ売り出したい」。

スタートアップの資金は、もっぱら新製品の開発に投じられる。「セキュリティーを考えようという経済的なインセンティブが存在しない」と、テキサス大学のカーデナスは言う。「このような製品では、セキュリティーはいつも後回しだ」


では、IoTの中でも成長著しい「スマートホーム」の分野ではどうか。最先端の技術を誇るアマゾンやグーグルの機器は? 自動車は?(サイバーセキュリティーの専門家によれば、現時点で最も懸念されるのは自動車だ)11月6日発売号「危ないIoT」特集では、それらの脆弱性についても詳細に報じている。

<2019年11月12日号「危ないIoT」特集より一部抜粋>

20191112issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

11月12日号(11月6日発売)は「危ないIoT」特集。おもちゃがハッキングされる!? 室温調整器が盗聴される!? 自動車が暴走する!? ネットにつなげて外から操作できる便利なスマート家電。そのセキュリティーはここまで脆弱だった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米8月小売売上高0.6%増、3カ月連続増で予想上回

ビジネス

米8月製造業生産0.2%上昇、予想上回る 自動車・

ワールド

EU、新たな対ロ制裁提示延期へ トランプ政権要求に

ワールド

トランプ氏、「TikTok米事業に大型買い手」 詳
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 8
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 9
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中