最新記事

世界経済入門2019

仕事を奪うAIと、予想外の仕事を創り出すAI

HOW AI CREATES JOBS

2018年12月27日(木)17時00分
ケビン・メイニー(本誌テクノロジーコラムニスト)

CHOMBOSAN/SHUTTERSTOCK

<技術の進歩という革命を悲観することはない。トラック運転手からウエーター、数学者、医師まで、作業の「ロボット化」は多くの人から仕事を奪うが、多くの可能性ももたらす>

※ニューズウィーク日本版SPECIAL ISSUE「世界経済入門2019」が好評発売中。貿易戦争、AI、仮想通貨、循環型経済、ブレグジット、日本経済、そして「来るべき危機」......。トレンドワード10&投資家パックンの超解説も収録。教養としての経済知識を学び、マネーの流れを読む1冊です。
(この記事は「世界経済入門2019」の1記事)

先の戦争に学び次の戦争に備える。碁や将棋の世界では既に人工知能(AI)ソフトが名人級の棋士を次々と破っている。でも、人間の棋士が失業したという話は聞かない。なぜだろう?

AI棋士が今よりも賢くなるには、人間の棋士から学び続ける必要があるからだ。そうであれば、AIが私たちの雇用を奪うというのは取り越し苦労にすぎず、むしろ今までとは違う雇用を生み出してくれると期待していいのかもしれない。

実際、今や世界の先端企業はこぞってAIの開発に取り組んでいる。IBMは「ワトソン」の開発に10億ドルを投じ、アマゾン・ドットコムはAIアシスタントの「アレクサ」に期待をかけ、アップルも「Siri(シリ)」で対抗。グーグルやフェイスブック、マイクロソフトもAIやロボットの研究に巨費を投じている。

AIがもたらす変化は速く、かつ巨大だろう。過去にこれに近い変化が起きたのは20世紀初頭だった。自動車や電気通信、飛行機、電気の使用が一気に普及し、その後の20年ほどで世界は劇的に変わってしまった。

私たちも今、新しいテクノロジーがものすごい勢いで登場してくるなかで同じような激動の時代に突入している。とりわけ重要なのがAIだ。それは技術哲学者のケビン・ケリーに言わせれば「全ての原動力」。ロボットもバーチャルリアリティーも、ブロックチェーンも3DプリンターもAIなしにはあり得なかった。

しかも現代は全世界がネットワークでつながり、30億人がスマートフォンを持ち、世界規模のクラウドを共有している。買い物も交際も、仕事も娯楽も、主たる舞台はネット上にあって、いや応なくグローバルにつながっている。こんな世界では、変化の波は史上最強の津波となって私たちを襲ってくる可能性がある。

この変化についていくのは容易ではない。現在のAI主導の革命はあまりにスピードが速いため、私たちは今後どうなるのかを想像することさえできずにいる。

AIと人間の脳の研究企業ヌメンタを創業したジェフ・ホーキンズに言わせると、今のAIは1950年代初頭のコンピューターのような段階にある。つまり、まだまだ黎明期だ。しかしコンピューターは、その段階から20年もしないうちに航空機の予約システムや銀行のATMを生み出し、人類の月面到達を手助けした。1950年代には誰も予想し得なかった変化だ。

EconomyMookSR181227ai-2.jpg

カクテルを作るロボット・バーテンダー「カール」 FABRIZIO BENSCH-REUTERS

トラック運転手がいなくなる

AIとロボットが今後10~20年で社会にどのような影響を及ぼすのか。それを予想するのはさらに難しい。

では、AIは労働市場にどのような影響を及ぼすだろうか。

現在、世界で最も多くの人が就いている仕事はトラックの運転手で、アメリカだけでもその数は350万人に上る。しかし2016年4月にはオランダ政府が、国境を越える自動運転トラックの走行試験を成功裏に実施した。同年、配車サービスのウーバーは、自動運転トラックの新興企業オットーの買収に6億8000万ドルを投じている。

【参考記事】「投資家パックン」と読み解く、2019年世界経済の新潮流

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中