最新記事

テクノロジー

軍用ドローンで世界はどうなる 〈無人化〉時代の倫理に向けて

2018年10月10日(水)18時15分
渡名喜 庸哲

つまり、問題は、「技術」や「テクノロジー」それ自体にも、「人間」がそれをどう使うかにもかぎられないということだ。本書が示すのは、とりわけ「人間の代わり」をもたらす「技術」の促進が、「人間」と「技術」の関わりを超えて、「人間」と「人間」の関わり、人間の「心理」や「道徳」、人間社会の規範を定める「法的」システムや「政治」体制、つまり「身体」をもって生きる具体的な人間たちの存在条件それ自体にどのように関わってくるか、ということだからだ。このような考察は、〈無人化〉時代の「倫理」(何をなすべきかを語る道徳論でも、いわゆる「技術者倫理」でもなく、人々の「住み処」を意味していた「エートス」の語源的な意味で)を考える上できわめて重要だろう。

日本の軍事ドローン研究


防衛省も独自にドローンの研究を行っており2011年に一般公開している。 防衛省 / YouTube

第二に、日本における軍事技術の開発という点に触れないわけにはいかない。本書は主にアメリカにおける事例を中心に扱っているが、日本も無関係ではないだろう。2014年4月に武器輸出が解禁され、同年七月に集団的自衛権行使容認が閣議決定され、2015年9月には安保法制が成立する。こうした政治的な流れは、産業界・民間企業、さらには大学をはじめとする研究機関を巻き込んで、社会全体で進められはじめている。

防衛装備庁が2016年8月に発表した「研究開発ビジョン」では、「航空無人機」が近い将来に主要な「防衛装備品」となるとし、重点的な研究・開発の促進を求めている。その開発には民間企業の技術力が期待され、すでに「ドローン等を用いた監視・検査の自動化・効率化」といったテーマでの構想設計が進んでいる。

他方で、防衛省は2015年度から「安全保障技術研究推進制度」を設立し、これまでの日本の慣例を打ち破るかたちで、大学における軍事研究の推進の方向性を打ち出した。日本経済団体連合会は同年9月に「防衛産業政策に向けた提言」を発し、大学にも「安全保障に貢献する研究開発に積極的に取り組むことが求められる」としている。実際、こうした情勢のなか、大学等の研究機関において、ドローンに関しても、軍事利用が十分に想定されるような研究がすでになされはじめている。

本書で示されている見解が、こうした日本の状況にどれほど合致するのかはそれぞれ検討しなければならないだろうが、「ドローンのある世界」についてさまざまな観点からなされた本書の根本的な考察は、われわれ自身の「未来」を考える際にも大きな助けとなるだろう。

*本記事は、『ドローンの哲学』訳者解題の一部を加筆修正したものです。
 

渡名喜 庸哲(となき・ようてつ)
1980年生れ。慶應義塾大学商学部准教授。フランス哲学、社会思想史。主要業績に『カタストロフからの哲学――ジャン・ ピエール・デュピュイをめぐって』(以文社, 2015年, 共編)、『エマニュエル・レヴィナス著作集』(第1巻, 法政大学出版局, 2014年, 共訳)、ジャン=リュック・ナンシー『フクシマの後で――破局, 技術, 民主主義』(以文社, 2012年)、 ジャン=ピエール・ルゴフ『ポスト民主主義時代の全体主義』(青灯社, 2011年, 共訳)などがある。 
 
 
 
 

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中