最新記事

JURASSIC PARK

琥珀とダニと恐竜再生──『ジュラシック・パーク』が現実に?

2018年7月5日(木)17時18分
クリスティン・ヒューゴ

9900万年前に琥珀の中に閉じ込められた恐竜の羽毛とダニ(右は拡大したダニ) ENRIQUE PENALVER, IGME


<7月13日から『ジュラシック・ワールド/炎の王国』が公開となるが、恐竜再生は可能なのだろうか。映画の筋書きとそっくりな2017年12月の研究発表に、多くの人々が心を躍らせた。本誌SPECIAL EDITIONムック「『ジュラシック・パーク』シリーズ完全ガイド」より>

白亜紀(1億4500 万~6600 万年前)のある日、ダニが餌を探して恐竜の羽毛の上をはい回っていた。どういうわけか、ダニは羽毛と共に琥珀の中に閉じ込められ、1億年近くたった2017年に発見された。今ではこの小さな樹液の塊が、ダニが恐竜に寄生していたことを示す最初の直接的な証拠になっている。

発見に使われた9900万年前の琥珀はミャンマー産で、個人の化石・宝石コレクターがニューヨークのアメリカ自然史博物館などに寄贈したもの。太古のダニが中に入っていて、科学者たちの国際チームが分析したところ、吸血性の寄生生物が宿主の遺物(この場合は恐竜の羽毛)に直接付いているものとしては、確認できる限り最古の標本であることが分かった。白亜紀といえば現代の鳥類への進化が起こる前のことで、羽毛は鳥ではなく羽毛恐竜のものだとみられている。

研究チームはこれらのダニをデイノクロトン属の新種「デイノクロトン・ドラクリ」と名付け(「ドラキュラの恐ろしいダニ」という意味)、17年12月12日付の英オンライン科学誌ネイチャーコミュニケーションズで発表した。

「ダニは血を吸い、寄生する嫌われ者だ。人間や家畜、ペット、さらには野生動物の健康に大きな影響を与える。しかし太古の時代にどうだったかについては、これまではっきりした証拠がなかった」と、論文の筆頭著者であるスペイン地質調査所のエンリケ・ペニャルベルは述べた。

これは恐竜の羽毛の初めての標本ではないし、琥珀の中に恐竜の化石が見つかったのも初めてではない。それでも非常に珍しい発見で、吸血寄生生物が恐竜を標的にしていたことを示す初の証拠でもある。

琥珀の中に見つかったダニのいくつかは、血を吸って体が膨らんだ状態だった。これは映画ファンに期待を抱かせたかもしれない──恐竜の血を吸ったダニなんて、『ジュラシック・パーク』で重要な役割を果たした蚊とちょうど同じじゃないか。

しかし、小説や映画のようにはいかないだろう。今回のダニが、恐竜のクローンを作るために抽出できる血液を含んでいる可能性はない。13年のハチの例もそうだが、太古の琥珀の中で見つかった昆虫からDNAを抽出する試みは全て失敗している。

DNAは不安定な分子だ。非常に早く分解されるので、太古の標本をクローン作りに使うことは難しい。酵素、放射線、酸素、水は徐々にDNAを判別不能なものに変化させると、カリフォルニア大学サンタクルーズ校のベス・シャピロ教授(進化生物学)はあるインタビューで述べている。

今回の場合、ダニがその体内にためていた血液が恐竜のものかどうかさえ、科学者たちは断定できない。ダニの体が完全な状態で残っておらず、体の中身は分解されていたからだ。そうであれば、DNA配列の一部でも解読できる可能性はさらに低くなる。それでもこの発見は、これまでで最も『ジュラシック・パーク』の世界に近いものではあった。

◇ ◇ ◇

61UR-w-PLIL-thumb-240xauto.jpg※世界中の映画ファン、恐竜ファンを魅了してきた『ジュラシック・パーク』の全米公開25周年を記念した、本誌SPECIAL EDITIONムック「『ジュラシック・パーク』シリーズ完全ガイド」は、シリーズ全作の知られざる逸話や最新作の見どころが満載。こちらからお買い求めになれます。

【参考記事】『ジュラシック・ワールド』最新作監督「恐竜の声で俳優たちを...」
【参考記事】ハイブリッドな恐竜もいる、怖くて愛すべき恐竜図鑑

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

シティ、北海ブレントの短期予測引き下げ 米・イラン

ビジネス

アングル:インド映画業界に激震、トランプ氏「外国作

ワールド

米英貿易合意発表へ、トランプ氏の関税戦争発動以来初

ビジネス

トヨタ、円高や資材高で今期2割の営業減益に 米関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗と思え...できる管理職は何と言われる?
  • 4
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 5
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 8
    「関税帝」トランプが仕掛けた関税戦争の勝者は中国…
  • 9
    あのアメリカで「車を持たない」選択がトレンドに …
  • 10
    日本の「治安神話」崩壊...犯罪増加と「生き甲斐」ブ…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中