サステナブルな未来へ 「チェンジ・ナウ」が示した環境テクノロジーの現在地
■「インパクトあるAI+テクノロジー」部門 地球問題解決につながる生物模倣のデータベース
自然界のしくみを模倣してデザインや技術開発に活かす「バイオミミクリー(生物模倣)」は、さまざまな分野で取り入れられている。エアコンの室外機に鳥の翼の要素を応用して省エネ化する、マグロの皮膚をヒントに低摩擦の船底塗料を開発して燃料消費量やCO2排出量を抑えるといった例からわかるように、バイオミミクリーは気候変動の具体的な対策になり得る。
アステリア社(フランス)は、そうした環境イノベーションを増やすため、AIによって作成した生物学的戦略データベース(50万件の手法)を提供する。データベースは生物学の知識を専門家以外の人でも理解できるようにわかりやすく解説し、問題分析から新しい技術の設計までの道筋を示してくれる。1月にリリースしたベータ版で、ロレアルやルノーなどがプロジェクトを進めているという。
■「インクルージョン」部門 女性用の移動式簡易トイレ
ラピー社(デンマーク)は、屋外イベント向けに、女性の排尿に特化した移動式のトイレ(ポリエチレン製。リサイクル可能)を開発した。男性用の排尿専用トイレはあるのに女性用はないというジェンダー不平等を解決する。
1台3人分で出入り口は3つ。上から見ると三つ葉のクローバーのようで3つの筒がくっついている形状だ。上部は開放してあり、トイレ内での犯罪が防げる。水を使わず、使ったトイレットペーパーは備え付けの袋に入れる。底は1,100リットル(3,500人分の尿の量)のタンクになっている。個室型トイレのように長い列に並ばずに済み、素早く用を足せると好評だ。
ラピーは業者にトイレを販売し、業者がレンタルする。導入する国は増え、昨年はパリ五輪を含めて350のイベントに設置された。同社の昨年の収益は前年の2倍の35万ユーロ(約5,600万円)に達した。
行動している人たちのエネルギー
気候変動や社会格差など、世界が直面する課題に対して悲観的になりがちな昨今だが、「チェンジ・ナウ」が示したのは希望の光だ。ここに集まった数々の新しいプロジェクトを見て、「今変えていこう!今変わろう!」と行動している人たちに出会えば元気をもらえるはずだ。環境問題に立ち向かう世界的な連帯の輪は、確実に広がりを見せている。これからのチェンジ・ナウも楽しみだ。
[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。欧米企業の脱炭素の取り組みについては、専門誌『環境ビジネス』『オルタナ(サステナビリティとSDGsがテーマのビジネス情報誌)』、環境事業を支援する『サーキュラーエコノミードット東京』のサイトにも寄稿。www.satomi-iwasawa.com