最新記事
うつ

世界的経済学者が体験した『うつとの闘い』──50歳で心のバランスが崩れた私の再生録

2025年7月9日(水)12時37分
浜田 宏一(イェール大学名誉教授)*PRESIDENT Onlineからの転載
世界的経済学者が語る『うつとの闘い』──50歳で心が折れた私の再生録

Pixel-Shot -shutterstock-

<イェール大学名誉教授、内閣官房参与、アベノミクスの理論的支柱──華々しい経歴を誇る経済学者・浜田宏一氏が重度のうつ病に襲われ、隔離病棟への入院を経て回復に至った道のりを語る>

※本記事は自殺に関する内容を含みます。ご注意ください。

50歳を過ぎて激しいうつ病に

英国ウォーリック大学のキャンパスは、劇作家ウィリアム・シェイクスピアの生誕地としても知られる、同国中部の緑豊かなストラットフォード・アポン・エイヴォンの近くにある。

1978年、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに客員講師として滞在した後、私はウォーリック大学で開かれた若手の研究会のワークショップに参加していた。学者にとっては大きな学会より少人数で議論を尽くせる研究会(セミナーやワークショップという)に参加するほうが大変役立つ。


そのころ私は、それまで主に抽象的な数理経済学やボードゲームなどに応用されていた「ゲーム理論」を、政府同士が競い合う経済政策の実践の場で活用しようとしていた。そのため普段なら、新人の私は研究発表の機会を喜んで受け入れたはずだ。

ところが、ワークショップに参加してみると何となく気が晴れない。発表を勧められても尻込みしてしまった。その半面、ワークショップの余興ともいえるシェイクスピアの『から騒ぎ』を隣町に見に行くのには熱心で、英語のセリフがわかるようにと、脚本をあらかじめ読んでいったりした。

数週間にわたるワークショップを終えた後、家族との再会がこれほど心の安らぎとなったことも、これまで一度もなかった。その後、日本に帰国したので気持ちは落ち着いたが、今振り返ってみると、ウォーリック大学の研究会出席のときが、これから7~8年後に私を苦しめることになる「うつ病」の前兆だったのだ。

わたくしの人生の最も大きな曲がり角は、50歳を過ぎて東京大学からイェール大学に転勤した後に、激しい「うつ病」――後でわかったことには、正確には「躁うつ病」ないし「双極性障害」――に襲われたことである。

イェール・ニューヘイブン病院の隔離病棟に入院した私は、そこから回復の道を歩むこととなったが、滅多にできない体験をした。

その体験は皆に、そして特にうつ病に苦しむ人に知ってほしいことも多く、書き留めておきたいと思っていた。幸運に恵まれて、2024年夏、ハーバード大学の内田舞医学博士との共著で『うつを生きる』(文春新書)として公刊された。

以下は、共著者のわたくしが同書を書くことにより学んだことである。本書の計画中、共著者の内田舞医博は、わたくしの「本書を書くことで昔を思い出してうつが再発しませんか」という問いに、「むしろ、うつの治療になると思います」と答えた。私には信じられなかったが、今になるとその言葉の意味がわかるような気がする。

食と健康
「60代でも働き盛り」 社員の健康に資する常備型社食サービス、利用拡大を支えるのは「シニア世代の活躍」
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

モディ印首相、中国との「関係改善に尽力」 習主席と

ワールド

インドネシア大統領、訪中取りやめ 首都デモが各地に

ビジネス

中国製造業PMI、8月は5カ月連続縮小 内需さえず

ワールド

ロシア軍参謀総長、前線で攻勢主張 春以降に3500
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 5
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 6
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 7
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 8
    「体を動かすと頭が冴える」は気のせいじゃなかった⋯…
  • 9
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 10
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 10
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中