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うつ

世界的経済学者が体験した『うつとの闘い』──50歳で心のバランスが崩れた私の再生録

2025年7月9日(水)12時37分
浜田 宏一(イェール大学名誉教授)*PRESIDENT Onlineからの転載

私がそのときうつの影響から完全に逃れていないと感じていた理由は、経済理論に関する研究意欲と研究の直感、最も重要なのはそれに対する自己信頼の面にこそあった。高齢になり、独力で理論研究を行う集中力に欠けるとはいえ、本を書いているうちに理論研究への好奇心が戻ってきたし、共同研究者との対話が急に楽しくなってきた。

精神疾患はほかの体の病と異なり、私たちが普段、自分でコントロールできていると思っている「意識」が病む。われわれが虫垂炎になれば、痛みを自分では制御できないので、医者にかかって手術などの措置を受けるのが当然と考える。しかし精神疾患は、自分で処理できると患者が思ってしまうのである。


それに加えて、若い世代では次第に薄れているとはいえ、精神疾患には「恥」の要素がある。制御できるはずの神経を制御できないのは、自分の弱さゆえだと思ってしまう。「悩みなど気の持ち方一つ、すぐ治るはずで、普通の風邪と同じですよ」とうつ病の人は慰められがちである。

しかし、うつ病はかかりやすい点で風邪と同じであっても、風邪のように放っておいても治る病気ではない。さきほど述べたように、本稿を書きながら、わたくしもウォーリック大学での憂鬱を思い出し、これが7~8年後の本格的なうつの発作の序曲のようなものだと改めて感ずる。この段階で治療を受けていればどうなっていたのだろうか。

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厚生労働省の調査によると、自殺者数は最近減少傾向にあるものの、23年も日本人の10~39歳の死因の第1位は自殺である。日本では平均24分に1人、1日に約60人、1年間で男性が1万4862人、女性が6975人、自殺で亡くなっている。

うつ病や躁うつ病は自力で治さなくていい

なぜ、うつに関する対話によって、うつ状態に改善が見られたのであろうか?

おそらく、私の中に残っていた、うつ病に対する「恥」の感情をなくしてくれたからである。同書にも述べたように、自分の遺伝も考えられるところであるが、米国でガラスアーティストとして成功していた息子を自殺で喪った。私自身がうつの苦しみをよく知っていながら、なぜ息子に万全の回復手段を与えられなかったのかという自責の念に絶えずさいなまれた。

アメリカの主治医は、うつの対話治療中、激しい言葉を使うことはほとんどないが、私が息子の治療に責任を感ずると述べたときには、「それはおまえの責任ではない」と強く叱った。

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