「達成の快楽は20世紀的」 佐々木俊尚に聞いた、山頂を目指さない「フラット登山」の魅力
──山を歩いているときはどういうマインドでいるといいのでしょうか? 日常的な悩みや仕事のことを考えてしまうこともあると思います。
まあ、どうしても考えちゃいますよね。考えちゃうけど、執着しなければいい......とか言っていると、禅みたいな話になっていくけれど、それに近いと思いますよ。前に仏教のお坊さんから聞いたのは、青空に浮かぶ雲が雑念だとしたら、雲が湧いてくるのは避けられないから、雲を拒否せず、流れ去るまで放置しておくこと。
あとは仲間と一緒に行けば遭難のリスクヘッジにもなりますし、「景色すごいね」「でかい木があるよ」とか話していれば余計なことを考えなくてもすみますよね。僕も20代の頃はよく一人で登山をしていたけれど、いまは仲間と楽しみながら歩いています。
──本書では、フラット登山の概念から必要な装備やハック、そして佐々木さんのおすすめコースとして、東京都西部の野川周辺や三浦半島、富士の樹海など関東近郊を中心に30のルートを紹介しています。それ以外に、自分の住む地域の近くでフラット登山のコースを探すコツはありますか?
山の地図を見ながら、山頂へ登らず山麓だけを歩けるコースを探すのがいいと思います。なるべく平たくて森の中や牧場の近く、田んぼのあぜ道とか、そういうところで歩ける場所がないかなと探していくんです。ロングトレイルのコースの一部を歩くのもいいし、湖のほとりや川沿いも狙い目です。
──では最後に、どんな人にフラット登山をおすすめしたいですか?
頭脳労働で疲れている人や体力の衰えを気にしている人に、ぜひ気楽にやってみてほしいですね。若い頃は、身体を動かしていたけどブランクがあるというかつての僕のような人にも五感を使う気持ちよさを思い出してほしい。分厚さを驚かれるほど今回の本に詰め込み、この一冊を読めば分かるようにしているので参考にしてみてください。
『歩くを楽しむ、自然を味わう フラット登山』
佐々木俊尚[著]
かんき出版[刊]
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●取材・執筆:一ノ瀬 伸(いちのせ・しん)
ライター。1992年、山梨県市川三郷町生まれ。立教大学社会学部卒業後、山梨日日新聞記者、雑誌「山と溪谷」編集者などを経て2020年からフリーランス。時事やインタビューのほか、旅や自然、暮らし、精神などに関する記事を執筆している。