最新記事
BOOKS

修羅場はくぐったがピアノは未経験、50代でABBAを弾いた...ただそれだけの経験が人の心を打ったのはなぜ?

2025年5月16日(金)16時30分
鈴木智彦

翌日早朝、知り合いから携行缶を調達し、稼働していたガソリンスタンドを回って給油、イチかバチかで根室に向かった。幸い燃料は間に合い、到着の一時間前には根室の電気も復旧した。

「......軽トラで来たのか?」。呆れ顔の証言者はこちらの要望を気持ちよくOKしてくれたばかりか、貴重な話を聞かせてくれた。帰路、居留守を使い続けるヤクザの、趣味の悪い密漁御殿を急襲したが、姐(ねえ)さんが不穏な声で応答するだけだった。


訂正箇所を急ぎ送って帰京する。ようやく書籍は校了した。こうなればどうしようもない。なにもかもあきらめるしかない。

ライターズ・ハイ:5年を費やした大仕事が終わった結果

すべての抑圧から解放され、盆休みと正月休みとゴールデン・ウイークが同時に到来したような高揚感に包まれた。アクセル全開で仕事をしていたのでエンジンはかかりっ放しで、すぐにでも取材に飛び出せるほど脳みそが仕上がっている。

脳細胞がフルスロットルのところに、途方もない解放感がぶちまけられると、脳内のアドレナリンがナイアガラの滝になる。MDMAで逮捕されたエリカ様も違法薬物に頼らず、ライターズ・ハイともいうべき躁状態を会得していれば、大河ドラマを撮り直させることもなかったろう。

苦労が多ければ多いほどトリップのスケールは大きくなる。五年がかりの仕事にケリが付いたのだから、ほぼ宇宙旅行だ。とはいえ、仕事が終わったばかりでやることもない。いや、缶詰生活の中、締め切りを抜けたらやりたいことは多々あったはずだが、たいていは忘れてしまい、映画館に行くのが関の山である。

何の気なしに映画を観にいった。行きつけにしている練馬のシネコンは、平日の昼、東京とは思えないほど客がいない。いびきを搔(か)いて寝たところで咎(とがめ)る客もおらず、朝から晩までぶっ続けで映画を観た。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB議長、待ちの姿勢を再表明 「経済安定は非政治

ワールド

トランプ氏、テスラへの補助金削減を示唆 マスク氏と

ビジネス

米建設支出、5月は‐0.3% 一戸建て住宅低調で減

ビジネス

ECB追加利下げに時間的猶予、7月据え置き「妥当」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    未来の戦争に「アイアンマン」が参戦?両手から気流…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中