牛乳=骨太は間違いだった! 「牛乳をたくさん飲む国ほど骨折が多い」衝撃の研究結果

2023年3月31日(金)12時35分
生田 哲(科学ジャーナリスト) *PRESIDENT Onlineからの転載

骨折と死亡リスクの関係性を示す調査結果

女性集団を20年間にわたり追跡調査したところ、死者1万5541人、骨折者1万7252人、そのうち股関節(足の付け根の部分にある関節)の骨折者は4259人だった。牛乳を多く飲んでも骨折リスクは低下しなかった。その上、牛乳を1日3杯以上飲む女性(平均680ml)は、1日1杯以下の女性(平均60ml)にくらべ、死亡率が2倍になった。そして男性集団を11年間にわたって追跡調査したところ、死者1万112人、骨折者5066人、そのうち股関節の骨折者1116人だった。

女性集団ほど顕著ではないが、男性集団もまた牛乳の消費量が増えるにつれ、死亡率が高くなった。さらに分析を進めると、牛乳の摂取量が増えるにつれ、酸化ストレスと炎症のバイオマーカーであるCRP値が上昇していた。CRPはC反応性タンパクといい、血液中のCRP値が上昇すると、体に炎症が起こっていることを意味する。これは、牛乳を大量に摂取すると、酸化ストレスが増し、骨折と死亡リスクが高まるという彼らの仮説を支持する根拠となっている。

因果関係を示す結果ではないが、問題視されている

「「健康神話」を科学的に検証する」対照的に、ヨーグルトやチーズといった発酵した乳製品は、酸化ストレスを引き起こさなかったばかりか、とりわけ女性において寿命が延びることに加え、骨折リスクも低下した。要するに、牛乳は寿命を短くするが、ヨーグルトとチーズは寿命を延ばすのである。

牛乳と、ヨーグルトとチーズでは何が違うのか。ヨーグルトとチーズは、発酵によって乳糖が分解したため、骨折リスクと寿命における好結果に結びついた、と推測できる。この論文の結論は、こうだ。牛乳をより大量に摂取することによって男女とも、骨折リスクは低下しないだけでなく、死亡率は上昇していた。

牛乳に含まれるラクトースとガラクトースが死亡率の上昇に関係している、と推測できる。これまで骨折を防ぐために牛乳をたくさん飲むように推奨されてきたが、この研究結果によってその有効性に大いなる疑問が投げかけられた。

ただし、この研究結果の解釈には注意が必要である。牛乳が死亡率を上昇させるという結論は、スウェーデンだけでなく、牛乳摂取量の異なる他国でも追試し、確認されなければならない。それから、この研究は牛乳、骨折、死亡率に相関関係があることを示すものであるが、牛乳が骨折と死亡率を高めるという因果関係を示すものではない。

ニューヨーク市立大学のメリー・スクーリング教授は、こういう。「牛乳・乳製品の消費量は、経済の発展と動物性食品の消費の増加にともない、地球的規模で増加する傾向にあることから、牛乳と死亡率の関係を明らかにしなければならない。しかも、直ちに」。今、欧米を中心に、牛乳・乳製品の摂取量についてのガイドラインを見直す議論が巻き起こっている。

生田 哲(いくた・さとし)

科学ジャーナリスト
1955年、北海道に生まれる。薬学博士。がん、糖尿病、遺伝子研究で有名なシティ・オブ・ホープ研究所、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)、カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)などの博士研究員、1986年から91年までイリノイ工科大学助教授を務める。遺伝子の構造やドラッグデザインをテーマに研究生活を送る。現在は日本で、生化学、医学、薬学、教育を中心とする執筆活動や講演活動、脳と栄養に関する研究とコンサルティング活動を行う。著書に、『遺伝子のスイッチ』(東洋経済新報社)、『心と体を健康にする腸内細菌と脳の真実』(育鵬社)、『ビタミンCの大量摂取がカゼを防ぎ、がんに効く』(講談社)、『よみがえる脳』(SBクリエイティブ)、『子どもの脳は食べ物で変わる』(PHP研究所)、『「健康神話」を科学的に検証する』(草思社)など多数。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相、来週訪米 トランプ氏とガザ・イラン

ビジネス

1.20ドルまでのユーロ高見過ごせる、それ以上は複

ビジネス

関税とユーロ高、「10%」が輸出への影響の目安=ラ

ビジネス

アングル:アフリカに賭ける中国自動車メーカー、欧米
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 6
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中