最新記事
ヘルス

ある日突然「人工透析です」と告げられたら? 高血圧、高血糖、高コレステロールの人が知らない『あるリスク』

2021年7月4日(日)11時20分
牧田善二(AGE牧田クリニック院長) *PRESIDENT Onlineからの転載

私たちがなにか食べると血糖値が上がります。すると、上がった血糖値を下げるためにインスリンというホルモンが膵臓(すいぞう)から分泌され、血糖値の上がり方をほどほどに抑えてくれます。そして、数分間働いたインスリンは、腎臓で解毒されて尿へと排出されます。

このときに、糖尿病の患者さんはインスリンの効きが悪く、血糖値がかなり上がってしまいます。そのため、Aさんは注射でインスリンを補充していました。

インスリン注射をしても、なかなか血糖値コントロールは難しく、かつてはAさんのヘモグロビンA1c値も高く推移していました。

ところが、腎臓が悪くなったことで、本来なら数分後には消えてなくなるはずのインスリンが排出されず、いつまでも血液中に残ります。そして、血糖値を下げる働きをずっと続け、結果的にヘモグロビンA1c値が下がるのです。

腎臓が悪くなって透析が避けられなくなると、血糖コントロールがかえって良くなるなんて皮肉な話です。実際に、インスリン投与を止めることができる人も少なくありません。

しかしながら、こうしたケースでは、いくら血糖値が下がってもまったく喜ぶことはできません。その人の腎臓は、もはやあらゆる毒性物質を排出することができなくなっているわけですから。

「生活の質」はだだ下がり......

人工透析とは、機能が低下した腎臓に代わって解毒を行う治療です。そのため、一度、透析に入ったらやめることはできません。

透析の患者さんは「身体障害者1級」という最も重度の障害者と認定され、医療費はすべて国か健康保険組合が負担します。

透析は前述の通り、1回の治療に約5時間かかり、週3回ほど行います。以前はもう少し短く、4時間程度で終えることもありましたが、透析時間はできるだけ長く取ったほうが患者さんの体にとっていいことがわかってきました。

本当は、5時間よりももっと時間をかけたほうが望ましいのですが、それではまさに一日仕事で、患者さんはほかになにもできなくなってしまいます。せいぜい5時間が限度なのでしょう。

それでも、患者さんのQOL(生活の質)は大きく落ちてしまいます。また、透析を始めると血管が傷み、動脈硬化が著しく進みます。そのため、心不全、心筋梗塞や脳卒中といった血管系の病気が高頻度で起こります。加えて、透析の患者さんではがんの発症率も高くなることがわかっています。

実際に、透析に入った患者さんの5年生存率は60%。4割の患者さんは5年以内に亡くなります。だからこそ、透析に入らないで済む段階での治療が望まれるのです。

血清クレアチニン検査の大問題

ところが、腎臓の状態を判断するのに多くの医師が用いている「血清クレアチニン」の検査は、はっきりいって"役立たず"です。異常値が出たときには、たいてい手遅れだからです。

血清クレアチニン値は、腎機能を知る指標として、一般的な健康診断でも測定されます。おそらく、あなたの手元にある人間ドックや健康診断の検査結果表にも、その値が載っているはずです。そして、基準値内に収まっていることでしょう。

しかし、たとえ血清クレアチニン値が「正常」であっても、実際の腎機能はとうてい正常とはいえないケースが多々あります。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、海運造船業界への米調査影響を考察 供給網の安

ビジネス

高島屋、今期営業益予想を上方修正 百貨店コスト削減

ビジネス

午後3時のドルは151円後半に下落、米中対立懸念の

ワールド

トランプ氏、26日にマレーシア訪問 タイ・カンボジ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 9
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 10
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中