最新記事

新型コロナウイルス

緊急事態宣言は変異株の拡大を抑え込むか? 進化生物学的に危険な「日本のワクチン接種計画」のリスク

2021年4月26日(月)20時00分
宮竹貴久(岡山大学学術研究院 環境生命科学学域 教授) *PRESIDENT Onlineからの転載

反撃を許す時間を与えることは、変異を許す時間を与えること

reuters__20210426190354.jpg

時間を与えれば与えるほど、ウイルスに抵抗性の変異のチャンスを与えることになる。画像は首相官邸ウェブサイトより。

突然変異はランダムに、しかも非常に早い速度で黙々とウイルスに生じている。

たいていの変異は、抵抗性とは関係のない小さな変異であるのは確かだろう。けれども、ランダムに生じるのだから、ワクチン抵抗性に関連した部位に変異が生じる可能性も否定できない。

進化の目はその突然変異を見逃すはずがなく、そして瞬く間に抵抗性をもった変異体が蔓延する恐れがある。敵に反撃を許す時間を与えることは、抵抗性の変異を許す時間を与えることになる。

2021年3月8日、南アフリカ型の変異体の性質が従来のワクチンによる予防効果を脅かすという研究結果がNature誌に公表された(*6)。この結果は別の研究チームによっても支持されている(*7)。

ウイルスは絶えず変異している。進化生物学的に考えると、ワクチン抵抗性を持ったウイルスはいつ現れてもおかしくない

いったんそれが現れると、ワクチン接種というウイルスに対しての選択圧から逃れたその変異体は、一気に世に蔓延するだろう。そして製薬会社と抵抗性ウイルスとの「鼬ごっこ」が始まり、私たちはまた一からすべてのことをやり直さなくてはならない。


■参考文献
*1 Benedict MQ 2021. J Med Entomol, doi:10.1093/jme/tjab024
*2 Knipling EF 1959. Science 130, 902-904
*3 Koyama J et al. 2004. Annu Rev Entomol 49, 331-349
*4 Hibino Y, Iwahashi O 1991. Appl Entomol Zool 26, 265-270
*5 氏家 誠 2020. 化学 75, 43-47
*6 Wang P et al. 2021. Nature, doi.org/10.1038/s41586-021-03398-2
*7 Planas D et al. 2021. Nature Medicine, doi.org/10.1038/s41591-021-01318-5

宮竹貴久(みやたけ・たかひさ)

岡山大学学術研究院 環境生命科学学域 教授
1962年、大阪府生まれ。理学博士(九州大学大学院理学研究院生物学科)。ロンドン大学(UCL)生物学部客員研究員を経て現職。Society for the Study of Evolution, Animal Behavior Society終身会員。受賞歴に日本生態学会宮地賞、日本応用動物昆虫学会賞、日本動物行動学会日高賞など。主な著書には『恋するオスが進化する』(メディアファクトリー新書)、『「先送り」は生物学的に正しい』(講談社+α新書)、『したがるオスと嫌がるメスの生物学』(集英社新書)などがある。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英労働市場は軟化、インフレへの影響が焦点─中銀総裁

ビジネス

アングル:トランプ氏の「コメ発言」、政府は参院選控

ビジネス

1.20ドルまでのユーロ高見過ごせる、それ以上は複

ワールド

タイ憲法裁、首相の職務停止 軍批判巡る失職請求審理
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中