最新記事

ファッション

「車椅子じゃスカートは穿けない!」 ユナイテッドアローズ創業者を奮い立たせた女性の悩み

2021年3月13日(土)18時50分
澤田 智洋(コピーライター、世界ゆるスポーツ協会代表理事)*PRESIDENT Onlineからの転載
「041 FASHION」のフレアにもタイトにもなるスカート

「041 FASHION」のフレアにもタイトにもなるスカート 写真提供=ユナイテッドアローズ


コピーライターの澤田智洋さんは、子供が先天性の障害で目が見えないと知ったことをきっかけに、障害のある人たちと一緒に仕事をするようになった。そんななか、彼らが着る服の着脱やサイズ合わせに困っていることを知る。澤田さんの働きかけで始まった「041(オールフォーワン)」プロジェクトとは──。

※本稿は、澤田智洋『マイノリティデザイン 弱さを生かせる社会をつくろう』(ライツ社)の一部を再編集したものです。

麻痺でボトムの着脱が難しい、サイズがない...

アパレル企業のユナイテッドアローズと協働した、「041(オールフォーワン)」というプロジェクトを紹介します。

障害のある友人たちと話していると、日常的に着る服にさまざまな課題を抱えていることに気づきました。「麻痺があるのでパンツやスカートの着脱が難しい」「目が見えないから、どうコーディネートすればいいのかわからない」「自分に合うサイズの服がない」──。どうにかこの問題を解けないか。

そんな中、知人を介してユナイテッドアローズとのご縁をいただきました。

初顔合わせの場で、「実は......」と友人たちの課題を共有したところ、みなさん「え?」「そうだったんですね......」と思いがけない様子です。というのも、「衣服についての基本的な課題はおおかた解決されていると思っていた」と。

ペルソナよりも、実在する「ひとり」のために

それを聞いて、今度はより詳細に障害のある友人たちから服にまつわる声を拾い、「障害者が抱える、服の6課題」と題した資料にまとめました。当事者たちがいまだに、「着脱」「サイズ」「冷え」「素材」「フォルム」「デザイン」という課題に悩まされている、という事実をまとめた内容です。そしてユナイテッドアローズのみなさんに、こうご提案しました。「ターゲットやペルソナを設定するのではなく、実際に存在する『ひとり』を起点に新しいファッションを開発しませんか?」。

そして、こうお願いしました。「御社のようにブランド力があり、広く知られるアパレル企業が、たったひとりの障害者のためにものづくりをすれば、きっと世の中に大きなインパクトをつくれる。なにより、障害者たちはこんな課題を抱えていて、これを解決できるのはみなさんしかいない。みなさんの力が必要なんです」。

資料を前に、ユナイテッドアローズのみなさんはこう言ってくれました。「知ったからには『やる』以外の選択肢は考えられませんね!」。

一点もののスーツを仕立てるかのようだった

そこからの、ユナイテッドアローズの動きは桁違いのスピードでした。

社内に一斉送信で「このプロジェクトに参加したい人は手をあげてください」とメールを流すと、すぐに十数人のメンバーが集まったそうです。しかも、普段は縦割りのセクションを超えて、デザイン部門、パタンナー部門、生産管理部門、素材を調達する部門などから、まさにオールスターチームが出来上がったんです。

こうして始まったプロジェクトの名前は、「041 FASHION」。041は「ALL FOR ONE」を意味します。

「だれかのため」「ターゲットのため」ではなく、服に切実な課題を抱える6名を開発の起点として、それぞれに対して「ひとりのため=オールフォーワン(041)」の服づくりを行うことになりました。

その「ひとり」のうちのひとりが、関根彩香さん。脊椎損傷によって12歳から車イス生活をしています。車イスを使いはじめてから、ほとんどスカートをはかなくなったそうです。「着脱しづらいし、車輪に巻き込んでしまう可能性がある」から。「オシャレをしたい」とたまにスカートを買ってみても、結局着られないまま「友人に譲ることを繰り返していた」と言います。

通常業務の合間をぬって開発は進みました。試作品ができては関根さんにはいてもらい、意見を聞いてまた改良する。このサイクルを何度も丁寧に重ねました。まるで、オートクチュールで一点もののスーツを仕立てているかのように。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、米ロとの3カ国協議を支持 「最大限

ワールド

ウクライナ大統領、18日に訪米へ 米ロ会談後にトラ

ワールド

中国の王毅外相、インド訪問へ ヒマラヤの係争地につ

ワールド

前提条件なしの協議可能、米ロ首脳会談が証明=ロシア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 10
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中