最新記事

日本社会

アフターピル市販で「性が乱れる」と叫ぶ人の勘違い 日本の医療、年配男性の「有識者」が決めている

2020年10月25日(日)12時36分
久住 英二(ナビタスクリニック内科医師) *東洋経済オンラインからの転載

米国疾病予防管理センター(CDC)の報告でも、アフターピルOTC化後の2015〜 2017年に実施された10代の性経験調査から、次のようなことが示されている。

・2002年と比べ、未婚の10代男性の経験割合は17%減少した。
・性経験の年齢別の増加割合に、男女差はほとんどなかった。
・10代で初経験した15〜24歳女性78%と男性89%が、初経験時に避妊を行った。
・10代女性の間で最も一般的な避妊法は、依然としてコンドームである。


確かにアメリカに比べれば、日本は性教育が大幅に遅れている。それでも、"有識者"の方々にはぜひ科学に基づいた議論をお願いしたい。

科学よりも老婆心(老爺心?)が先立ちそうなことは、オンライン診療指針に関する検討会の構成委員名簿を見れば察しが付く。掲載された12人中、女性はたった1人。年齢は40代が1人で、あとはオーバー50、うち3名はオーバー70だ。議事録も確認すると、アフターピルについて発言のあった参考人も、すべて60代男性である。

ふと、菅政権発足時にSNS上で拡散された写真を思い出した。菅首相(71歳)+自民党新四役(60代後半~80代男性)の写真と、フィンランドのマリン首相(34歳)+連立政権党首3人(30代女性)が並んだ写真だ。

この国では、老若男女すべてに関わる医療の問題を、年配の男性たち中心に集まって決めていく。令和日本の現実である。

「女性の生き方」の問題であるはず

アフターピルの議論も、男性を中心に行われてきた。しかし本来、避妊やその方法は、社会全体の問題であると同時に、まずは「女性の生き方」の問題であるはずだ。自分の生きたい人生を生きる、その手段を選ぶ、という点において「女性の生きる権利」の一部とも言える。

かといって、女性だけで議論すべきものでもない。性に関わる問題は、当事者よりも、その外側にいる人々の無理解が生み出していることも多い。

特に今日、セクシュアリティの考え方も新たな局面を迎えている。これまでの社会は、身体的特徴にのみ基づく「男性か女性か」という単純な2分類による管理が許されてきた。しかし今や、「LGBT」という呼称でさえ古いという。実際にはもっとずっと多種多様なセクシュアリティーが存在し、それを前提とした議論が求められている。

性の問題を真に理解し、扱うことは容易ではない。さまざまな立場からの意見が飛び交う、真に開かれた議論の場が必要だ。医療や医療界も、認識の変化や体制の変革を求められるだろう。アフターピルのOTC化は、まだ最初の一歩だと思っている。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら
toyokeizai_logo200.jpg

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

北朝鮮、日本の核兵器への野心「徹底抑止」すべき=K

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ

ワールド

アングル:トランプ政権で職を去った元米政府職員、「

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中