最新記事

インタビュー

「毎日が正しさとの戦い」未来食堂の『ただめし』制度と店主の葛藤

2020年2月28日(金)17時40分
Torus(トーラス)by ABEJA

未来食堂を「体験」したい人は、「お客さんとして来る」「中で働く」「券を使う」という、3つの関わり方があります。

だから、テレビを観た人が3つの体験からどれを選ぶのかは自由だけれども、お店としてはできれば「券を使う」のは最後の手段であってほしい。そういうメッセージだったんです。

「使うな」とか、「あなたに使ってほしくない」とか、そういう意味じゃない。

だから、「今日のあなたは」と書いているんです。人はいつ、どういう状態になるか分からないから。

「いいことしよう」と思うと「いい人にしかあげない」人になる

Torus_Kobayashi8.jpg

──最初、店に入ったとき、小林さんが無表情でカウンターの中で文庫本読んでて、愛想ゼロにみえて正直緊張しました。もし「まかない」で店を手伝いたい人が来たら、委縮するかもしれない。

"まかない"という、見ず知らずの人が店を手伝いながらフレンドリーにもなれる仕組みがあるなかで、お店をきっちり回していくには、ピリッとした緊張感が必要です。

もし私が愛想よくニコニコしていたら、たいして"まかない"をする気がなくても「せかいさんと仲良くなりたいから手伝う」みたいな人も来るかもしれない。でも、仲良しのコミュニティを作るために、このお店を「手伝う」という考えは、違うと思うのです。

"まかない"をやるからには、やっぱりお客さんのために働いてほしいと思うんですよね。この店にとって一番いいのは、お客さんがちゃんと「今日来てよかったな」と思えることです。

──じゃあ、店のピリッとした雰囲気も、あえてなんですか?

そうですよ。 私、飲み屋で働いていたことがあるんですけど、お客さんと店の人が近すぎる店がどうなるかをよく見てきました。常連で埋まってしまって、逆に入りづらい店になるんですよね。

──でもなぜか、この食堂は「感動」の側面から語られますよね。

本当ですよ、不思議です。

でも未来食堂の「感動的」な仕組みはあくまで表層。毎日メニューを変えながら、いかにおいしいと感じてもらえるものを作り続けるかという挑戦が未来食堂の本質です。

Torus_Kobayashi9.jpg

満足したお客様がリピートし、でも同じメニューは二度と作らず、不特定多数とやっていく"まかない"で運用し、黒字を出す。 それってすごく難しいことです。

「感動する食堂ですから、感動していってください」と言って、もし中身がスカスカだったら、感動的なことに賛同する人しか集まらなくなってしまう。その閉鎖的な空気は私が求めるものではありません。

普通にごはん処として使ってくれる人もかなり多い。

でも感動するのも、それはそれで、その人の自由です。まあ「そうですか」って感じです。

「いいことしよう」「いいことしよう」と思ってるとね、「いい人にしかあげません」「困ってる人しか助けません」ってなっちゃうから。

取材・文:神山かおり、錦光山雅子 写真:西田香織 編集:川崎絵美

Torus_Kobayashi10.jpg

小林せかい(こばやし・せかい)
飲食店「未来食堂」経営者。1984年大阪府生まれ。東京工業大学理学部数学科卒業。日本IBM、クックパッドにて6年半エンジニアとして勤務。その後、さまざまな飲食店で修業を経て2015年に「未来食堂」をオープン。「まかない」「ただめし」の仕組み、月次決算の公開などユニークな運営で注目を集める。著書に『未来食堂ができるまで』(小学館)、『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』(太田出版)など。

※当記事は「Torus(トーラス)by ABEJA」からの転載記事です。
torus_logo180.png

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米最高裁、出生地主義見直し巡り1日に口頭弁論 トラ

ワールド

韓国とインドネシア、鉱物・ハイテク・金融分野での協

ワールド

ロイター調査:インド中銀、8日は金利据え置きか 中

ビジネス

エリオット、商船三井の経営計画「前向きな一歩」 株
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 5
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 6
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 7
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 8
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 9
    「え、なんで?」フライト中に操縦席の窓が覆われて…
  • 10
    韓国・週4.5日労働制が問いかけるもの ──「月曜病」解…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 8
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中