最新記事

人生が豊かになる スウェーデン式終活

世界の「終活」最新事情 人生の最後まで自分らしく生きる知恵

2018年7月18日(水)11時40分
佐伯直美(本誌記者)

北欧らしいスローで素朴な暮らしの哲学はシニア層からも共感を呼んでいる(スウェーデン) TINA BUCKMAN-PHOTOLIBRARY/GETTY IMAGES

<世界で高齢化が加速するなか、最後までより豊かに生きる道を模索するシニアが増加中だ。周囲に面倒をかけず、残りの人生を自分らしく楽しむための「スウェーデン式終活」とは何か。本誌7/18発売号「人生が豊かになる スウェーデン式終活」特集より>

アメリカでベビーブーマー世代の「大量引退」が始まって今年で10年。65歳以上の人口は4900万人(総人口の約15%)に達し、既に社会に大きな影響を及ぼす存在になっている。ヨーロッパやアジアでも高齢化は急速に進み、2050年には65歳以上の世界人口が約16億人(全体の約6分の1)になるとも予測されている。

巨大な高齢者市場の誕生で新たな商品やビジネスが次々と生まれる一方、当のシニアたちの間では、人生の最後まで自分らしく生きるための準備をする「終活」に取り組む動きが各国で広がっている。

社会環境や法律は国によって違うものの、直面する問題は同じ。思い出深い家や持ち物を捨てて小さい住居に移るべきか、延命治療などの医療をどこまで望むか、遺言や相続はどうするか。葬儀や埋葬はどんな形にしたいか──。自分に合った「正解」を求めて、誰もが試行錯誤しているのが現状だ。

テクノロジーの急速な発達によって、終活を取り巻く環境やニーズも大きく変化している。今では多くの人が財産関連の書類からアドレス帳、写真まで、重要なデータをインターネットやパソコン上で管理しているため、いざというときに家族がアクセスできない恐れもある(本誌32ページ)。

逆にテクノロジーを賢く活用すれば、少し前には考えられなかったような「遺産」を残すこともできる。オンライン上で親類や友人が思い出を共有できるメモリアルサイトを作ったり、本人の映像や声を基に、残された家族や友人が会話を交わせるバーチャルな「分身」を作り出すサービスも登場した(本誌36ページ)。

一方で、そんな時代だからこそ、あえてアナログなやり方で自分の足元を見つめ直し、残りの人生をより豊かにしようと考える人も増えている。なかでも注目されているのが、スウェーデン女性のマルガレータ・マグヌセンが書いた『人生は手放した数だけ豊かになる』(邦訳・三笠書房)だ。

本書は、家族が後で困らないよう、そして自分も物質から解放された自由な晩年を謳歌できるよう、長年ため込んだ持ち物を「断捨離」する──そんな考え方と実践法を説いたもの(本誌22ページ)。今年1月に英語版が発売される前からニューヨーク・タイムズ紙や英ガーディアン紙など主要メディアで次々と取り上げられ、アメリカでは発売後すぐにベストセラー入りした。

著者のマグヌセンは、「こんまり」こと近藤麻理恵のような片付けのプロではない。長年デザイナーとして働きながら5児を育て上げた、御年「80~100歳(正確な年齢は不明)」の普通の女性。そんな彼女が実体験から考え出した晩年の「物を減らす秘訣」を紹介している。近年欧米でブームを起こした「ヒュッゲ(デンマーク流のスローで素朴なライフスタイル)」にも通じる、北欧らしい発想が新鮮だ。

本特集では、こうした終活の最新トレンドや知っておくべき基礎知識、環境の変化などを厳選して紹介する。世界に目を向けると、より自由で共感できる考え方や、合理的な選択肢がまだまだあることが分かるし、誰もが抱える課題も俯瞰して見えてくる。それが、自分らしい「答え」探しの可能性を広げてくれるはずだ。

【参考記事】スウェーデン式「断捨離」の達人が直伝する、片付け4つの極意
【参考記事】ヒュッゲな北欧から、80歳超の「こんまり」が登場した理由


180724cover-200.jpg<世界で高齢化が加速するなか、最後までより豊かに生きる道を模索するシニアが増加中だ。本誌7/24号(7/18発売)「人生が豊かになる スウェーデン式終活」では、周囲に面倒をかけず、残りの人生を自分らしく楽しむための北欧式「終いじたく」を特集。他にも知っておくべき新常識から最新トレンドまでを厳選して紹介する>

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本の小説36
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月16日/23日号(9月9日発売)は「世界が尊敬する日本の小説36」特集。優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ミランFRB理事の反対票、注目集めるもFOMC結果

ワールド

中国国防相、「弱肉強食」による分断回避へ世界的な結

ビジネス

前場の日経平均は反発、最高値を更新 FOMC無難通

ワールド

ガザ情勢は「容認できず」、ローマ教皇が改めて停戦訴
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中