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イタリアでバズった日本小説って知ってる?――芥川から村上春樹、そして『コーヒーが冷めないうちに』まで【note限定公開記事】

ECHOES ACROSS CULTURES

2025年9月18日(木)17時20分
マッシモ・スマレ(イタリア在住翻訳家)
ビエンノの教会内部、歴史を感じさせる荘厳な空間

芥川の「蜘蛛の糸」にもキリスト教と通ずる考え方が(イタリア北部ビエンノの教会) BLUEREDーREDAーUNIVERSAL IMAGES GROUP/GETTY IMAGES

<芥川龍之介の短編に響いた古い概念。吉本ばななの『キッチン』が見せた革新。日本小説は、意外な共鳴を通じてイタリア人を魅了してきた >


▼目次
1.翻訳と映画が開いた日本文学ブーム
2.『キッチン』が切り拓いた、日本小説の新しい読者層
3.受け入れられた意外なテーマ

1.翻訳と映画が開いた日本文学ブーム

イタリアにおける現在の日本小説の大成功は、コリエーレ・デラ・セラとレプブリカという大手新聞社が日本文学双書を出版することからもはっきりと証明されている。

毎年刊行するその双書は、選出された約30冊の小説で構成される。

坂口安吾や中島敦をはじめとした文豪の作品を含めたり、小川洋子、角田光代、桐野夏生、多和田葉子、津原泰水など現代作家の小説を入れたりして、主に新聞販売店やインターネット書店で販売されている。

イタリア人の近代・現代日本文学への興味はいつ頃から始まったのだろうか。20世紀初頭からだと答えられるが、これは意外に長い、複雑なストーリーだ。

1904年、すなわち日露戦争の時に、イタリアの大衆文学の偉大な作家エミリオ・サルガーリ(1862~1911)は、『Lʼeroina di Port Arthur』(『旅順港の女傑』)という小説を執筆。

その勇ましい主人公たちは、なんと日本人だったのだ! この小説は、サルガーリが日本文化に深い感銘を受けたことをきっかけに書かれ、以後のイタリアにおける日本文学ブームの鍵となった作品だと言えるだろう。

日本人作家の作品がイタリア語に多く翻訳され始めるのは1950年代からだ。

翻訳されたのは川端康成、太宰治、三島由紀夫のような文豪の作品で、彼らの小説を読んでいたのは一般市民ではなく、ほとんどが中流階級層やインテリ、アーティストだけだった。

その中で、三島は特に愛され、芥川龍之介も谷崎潤一郎と共に少しずつ有名な作家になっていった。

芥川の場合、黒澤明監督の映画『羅生門』が51年にベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞したことは、イタリアで芥川が作家としての成功への道を開くきっかけとなっただろう。

もちろん、芥川の作品には日本の伝統的な要素が多い。例えば、「蜘蛛の糸」という掌編小説を分析してみよう。

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芥川龍之介「蜘蛛の糸( “Il filo di ragno” )」『地獄変とその他の短編(La scena dell’inferno e altri racconti)』 ATMOSPHERE LIBRI

仏教的な概念を扱っているのに、釈迦が地獄に救済をもたらす糸を垂らす行為に見られる慈悲は、キリスト教にある慈悲にも似た要素がある。

利己心に対する非難も、両方の宗教・文化に現れる。つまり、この掌編小説の基本である概念は人類共通だとも言えるだろう。

結果として「蜘蛛の糸」はイタリア人にとっても面白く刺激的なだけではなく、深い意味も持つ作品になった。

2.『キッチン』が切り拓いた、日本小説の新しい読者層

90年代初めに、日本小説の読者層は徹底的に変わった。

吉本ばななと村上春樹という2人の作家とその小説が、日本文学が一般的に読まれるきっかけをつくったからだ。

◇ ◇ ◇

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