最新記事
BOOKS

【べらぼう解説】大田南畝が蔦重を招いた「連」とは? 江戸の出版ビジネスの要となった文化人サロン

2025年6月2日(月)11時00分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

日本文化を作り上げた「編集」という方法

江戸時代においては、何らかの作品を生み出す作家よりも、むしろ、蔦屋重三郎のような既存のネットワークやアイデアを組み替え、繋げていくことで新しいものを発想していく「編集」という考え方がとても尊重されていたのだと思います。

平安時代や中世など、過去の文化・古典から受け取ったものを現代へと繋げて新しくすることも、編集のひとつです。先述したように、狂歌師を平安朝の有名な歌人に「見立て」る。逆に言えば、平安貴族を江戸の庶民の姿に「やつし」て捉える。「見立て」と「やつし」の関係です。また、同時代の多様な人々のなかから、才能を持ち寄って新しいものを生み出していくことも、また「編集」でしょう。しかし、こうしたあり方が、近代化が進むとともに失われていってしまったのです。

それまで複数人で詠まれていた俳諧が、独りで詠む俳句へとなっていく。「連」が分断され、個の才能だけが注目されるようになっていきました。本来、日本の文化というものは、そのようにはできていなかったはずです。ところが、江戸時代までの文化の作り方が、明治以降、断絶してしまうのです。それによって失われたものは計り知れません。

ですから、今回、蔦屋重三郎がNHK大河ドラマの題材に取り上げられることをきっかけにして、蔦重個人の天才性に注目するのではなく、蔦重が何をどのようにして「編集」したのか、どんなネットワークを交差させ、どのように組み合わせて、あれだけの面白いものを作ったのかというところに注目したいと思います。そして、失われた日本文化の「方法」を、これからの時代に改めて取り戻すにはどうすべきかを考えていきたいですね。


田中優子(たなか・ゆうこ)

1952年神奈川県生まれ。江戸文化研究者。法政大学名誉教授。法政大学社会学部教授、社会学部長、同大学第19代総長を歴任。主な著書に『江戸の想像力』(筑摩書房、芸術選奨文部大臣新人賞受賞)、『江戸百夢』(筑摩書房、芸術選奨文部科学大臣賞・サントリー学芸賞受賞)など。

newsweekjp20241001115047-ee86b8473e023f94c5bb356eb9d63c033a7c24e8.jpg
Pen BOOKS 蔦屋重三郎とその時代。
 ペン編集部[編]
 CEメディアハウス[刊]

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

newsweekjp20241001110840-52d8ba4d464f051b147f072154166ed910f7d37d.jpg

newsweekjp20241001110900-d17961cf9be794dc02a88e04cb4a7558dd610fb8.jpg

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国百度のAI半導体部門、香港上場を申請

ワールド

金正恩氏娘が宮殿初訪問、両親の間に立つ写真 後継ア

ワールド

韓国大統領が4日訪中、両国関係の「新たな章」期待 

ワールド

インド製造業PMI、12月2年ぶり低水準 需要減退
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 3
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    【現地発レポート】米株市場は「個人投資家の黄金時…
  • 8
    日本人の「休むと迷惑」という罪悪感は、義務教育が…
  • 9
    「断食」が細胞を救う...ファスティングの最大効果と…
  • 10
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中