最新記事
映画

人間の体は搾取してリサイクルする有機物の塊...ポン・ジュノ監督最新作で「今ここにあるディストピア」へようこそ

A Dystopia for Our Times

2025年3月28日(金)17時50分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)
『ミッキー17』でロバート・パティンソンが演じる2人のミッキー

2人のミッキーが生き残りを目指す ©2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

<まるで現在進行中の独裁世界が近未来の異星で展開する、ポン・ジュノ監督の最新作『ミッキー17』。奇抜な設定の世界が21世紀資本主義社会を生きる我々に突き付ける「現実味」>

長い待ち時間だった。国際的に高く評価された前作『パラサイト 半地下の家族』から約5年。ハリウッドのストの影響で公開延期が続いたポン・ジュノ監督の最新作『ミッキー17』は、その風刺的メッセージが現実と見事に重なり合うタイミングで登場した。

独裁的な大富豪(けばけばしいテレビ番組のホストでもある)が支配する宇宙植民地を舞台にしたダークコメディーの本作が、当初の予定どおり昨年3月に全米公開されていたら、起こり得る未来への切実な警告として受け止められたかもしれない。だがもはや、これは「今」そのものだ。


エドワード・アシュトンが2022年に発表したSF小説を原作とする『ミッキー17』は、54年の氷の惑星ニヴルヘイムで幕を開ける。

ミッキー(ロバート・パティンソン)は氷の穴の底に孤独に横たわり、間近に迫る死について考えている。そこへティモ(スティーブン・ユァン)が現れ、凍死しても大丈夫だと励まして引き返す。明日になれば、再び複製されるのだから──。

「使い捨て」になる人間

テンポのいい回想シーンが始まり、これまでの経緯が明らかになる。4年4カ月前、ミッキーとティモはマカロン販売業に失敗し、借金を背負った。拷問好きの闇金融業者から逃れるため、2人は異星の植民地化計画に参加する。

だがその際、ミッキーは致命的なミスをした。契約書をよく読まず、「使い捨て」になることに同意してしまったのだ。最新バイオ技術のヒューマン・プリンティングによって、「使い捨て」は何度死んでも、元の記憶を持ったコピーとなって生き返る。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、農場やホテルでの不法移民摘発一時停止 働き手不

ワールド

米連邦最高裁、中立でないとの回答58%=ロイター/

ワールド

イスラエル・イラン攻撃応酬で原油高騰、身構える投資

ワールド

核保有国の軍拡で世界は新たな脅威の時代に、国際平和
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中