最新記事

ドラマ

ドラマ版『スノーピアサー』にスタート早々の黄信号

Snowpiercer Goes Off the Rails

2020年6月5日(金)16時15分
マシュー・デッセム

先頭車両で殺人事件が発生、メラニー(手前右)は元刑事レイトン(同左)に捜査を依頼する Justina Mintz

<危機を生き延びても前途は多難ーー「安っぽさ」でタイムリーなテーマが台無しに>

軽率な富裕層のせいで大惨事に見舞われた地球。狭い空間に閉じ込められたひと握りの生存者。富裕層は優雅な生活を続けるため、平気で貧困層を犠牲にする......。

米ケーブルテレビ局TNTの新番組『スノーピアサー』は、今の時代にぴったりのドラマ。生存者を乗せた豪華列車「スノーピアサー」は、凍り付いた地球を永遠に周回し続ける。だがドラマのほうは、出発前から脱線している。

製作過程のごたごたも一因かもしれない。パイロット版の脚本・製作総指揮だったジョシュ・フリードマン(『ターミネーター サラ・コナークロニクルズ』)は意見の相違を理由に降板し、後任はグレーム・マンソン(『オーファン・ブラック 暴走遺伝子』)に。監督のスコット・デリクソンもマンソンの撮り直し要求を拒否して降板した。放送局も一時TNTからTBSに変更された(その後TNTに戻った)。

それ以上に大きいのが構造的な問題だ。今回のドラマはポン・ジュノが監督した2013年の同名映画と、その原作である1982年のフランスのグラフィックノベルに基づいている。地球が氷河期に突入し、生き残った人類が極寒に耐え得るように設計された豪華列車で暮らす設定と、先頭車両の富裕層と最後尾車両の貧困層の階級格差を軸にプロットが展開するのは、ドラマも映画も原作も同じだ。

だが、成功しているのは映画だけ。理由は単純、映画は最後尾車両の反乱者に焦点を当てた展開の速いストーリーになっているからだ。視聴者が列車について知り得るのは反乱者側からのみ。先頭車両に向かう途中の流血の戦いは考える時間をほとんど与えず、列車は資本主義の下での生活の恐ろしく単純な比喩としか思えない。スノーピアサーは社会ではなく戦場なのだ。一方、ドラマは時間が長い分、どうしてもあらが目につく。

乱闘シーンありきの設定

ダビード・ディグス(ミュージカル『ハミルトン』)は最後尾の車両で暮らす元刑事レイトン役。ジェニファー・コネリーは列車の謎めいた設計者を代弁する厳格な接客係長メラニーを熱演。何より彼女の部下を演じるアリソン・ライト(『ジ・アメリカンズ』)の怪演が光る。

だが、総じて脚本も演技もあまりに安っぽい。毎回、登場人物が自分の哲学と車内での立場を説明するナレーションは歯が浮くようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ・S&P続落、FRB議長発言で9

ワールド

米、パキスタンと協定締結 石油開発で協力へ=トラン

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、FRBが金利据え置き

ビジネス

米マイクロソフト、4─6月売上高が予想上回る アジ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い」国はどこ?
  • 4
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 5
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 6
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 9
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中