最新記事
映画

人間の体は搾取してリサイクルする有機物の塊...ポン・ジュノ監督最新作で「今ここにあるディストピア」へようこそ

A Dystopia for Our Times

2025年3月28日(金)17時50分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)

newsweekjp20250328041842-bc456fb4346fea107e19901ccc36d9a87fde20f3.jpg

ニヴルヘイムの植民地計画を支配する独裁者マーシャルは妻と贅沢三昧 ©2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

ミッキーは人間版「炭鉱のカナリア」だ。異星のウイルスに対するワクチンを開発するときも、未知の大気層の呼吸可能性を調べるときも、実験台になるのはミッキー。苦しんで死ぬたびに、彼の肉体は有機物リサイクル用の炉に投げ込まれ、そこから生み出される価値は独裁的支配者ケネス・マーシャル(マーク・ラファロ)のものになる。

マーシャルは、美食を愛する妻イルファ(トニ・コレット)と贅沢三昧だ。一方、その他大勢の人々は、巨大なチューブから支給される灰色の食料で命をつないでいる。


氷の穴の底にいるのは、17番目のバージョンのミッキーだ。彼が予想外の展開(ネタバレを防ぐため詳細は省く)で脱出に成功したとき、物語は大きく動き出す。

基地に帰り着いた彼は、もう1人の自分と出会う。ミッキー17は死んだと見なされ、既に複製されていたミッキー18だ。複数のコピーが同時に存在することは禁じられているため、2人のミッキーは1人分の仕事と食料を分け合って生き延びようとする。

2人は遺伝的には同一だが、性格が全く違う。オリジナルのミッキーの多面性を体現しているかのようだ。ミッキー17は心配性でお人よしだが、ミッキー18は怒りっぽく、政治的反乱に意欲を燃やす。

この奇抜な設定と、アイデンティティーの本質をめぐる問いかけによって、パティンソンは2人の人物を演じ分けるチャンスを手にした。結果は大成功で、本人も挑戦を楽しんでいるのは明らかだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、2カ

ワールド

米・ウクライナ鉱物協定「完全な経済協力」、対ロ交渉

ビジネス

トムソン・ロイター、25年ガイダンスを再確認 第1

ワールド

3日に予定の米イラン第4回核協議、来週まで延期の公
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中