最新記事
追悼

「切断された耳」を這うアリ...鬼才デビッド・リンチの最も「自伝的な映画」に描かれた二面性に迫る

The Oracle

2025年1月30日(木)15時45分
ローラ・ミラー(スレート誌コラムニスト)
デビッド・リンチ

リンチは他の監督との比較にはそぐわない存在だった CHRIS WEEKSーWIREIMAGEーSLATE

<深淵をのぞき込むような映画を撮り続けた奇才監督は、その作風とは対照的に不思議な陽気さを放っていた>

愛されたアーティストが亡くなると、SNSには追悼の言葉があふれる。彼女は天才だった、彼は巨人だった、と。

先頃78歳で死去した映画監督のデビッド・リンチ(David Lynch)も、そんな1人だったのか。もちろん。だが彼をそう表現することに、ほとんど意味はない。


スタンリー・キューブリックやマーティン・スコセッシのような監督なら、そうした言葉もふさわしい。他の監督を彼らと比較できるからだ。しかし唯一無二の存在であるリンチは、そもそも比較というものにそぐわない。

私たちは彼のような才能に二度と出合うことはないだろう。これまでも出合ったことがなかったのだから。

リンチは画家として出発し、ある意味で最後まで画家であり続けた。手で作り、目で見ることができるものを最も愛した視覚芸術家だった。

『デューン/砂の惑星(Dune)』の製作者ラファエラ・デ・ラウレンティス(Raffaella De Laurentiis)は、リンチの2018年の自伝『夢みる部屋(Room to Dream)』(邦訳・フィルムアート社)の共著者クリスティン・マッケナに「デビッドは何時間でも壁に点を打ち続けることができた」と語っている。

よく知られるように、リンチは自作について説明しなかった。彼はその理由を、見る人の視点で作品を理解してほしいからだと述べている。だがそれは同時に、自身の意図を明確に言葉にできなかったためとも思われた。

時には意図さえ持っていないようにも見えた。2001年の傑作『マルホランド・ドライブ(Mulholland Drive)』に登場する不吉な青い箱と鍵について、リンチは「あれが何なのか、私には見当がつかない」と語っている。

Mulholland Drive | Official Trailer | Starring Naomi Watts

編集部よりお知らせ
ニューズウィーク日本版「SDGsアワード2025」
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ガソリン暫定税率早期廃止目指す、与野党協議を設置=

ワールド

サウジ財政赤字、第2四半期は前期から41%減 原油

ビジネス

S&P中国製造業PMI、7月は49.5に低下 輸出

ビジネス

丸紅、25年4─6月期は8.3%最終増益 食品マー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 7
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 8
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中