最新記事
追悼

「切断された耳」を這うアリ...鬼才デビッド・リンチの最も「自伝的な映画」に描かれた二面性に迫る

The Oracle

2025年1月30日(木)15時45分
ローラ・ミラー(スレート誌コラムニスト)

映画『ブルーベルベット』

代表作の1つ『ブルーベルベット』は郊外の住宅地で過ごした幼年期の経験も盛り込んだ最も自伝的な作品 PHOTOFEST/AFLO

二面性を軽やかに生きた

言語は彼が抵抗した媒体であり、彼の作品で最も有名なフレーズ(例えば「フクロウは見かけと違う」)でさえ、言葉ではなく映像のように機能した。意味ではなく効果を持っていたのだ。

その効果はしばしば不安をかき立て、再現することは難しかった。リンチ作品に登場する、明滅する蛍光灯に照らされた長い空っぽの廊下には、他の監督には絶対に表せない怖さがある。


言葉とそれが伝えようとする意味は、私たちを繰り返し裏切る。リンチ自身は不気味な作品とは対照的に、ちょっと不思議な陽気さを放ち続けていたのは、彼が言葉とその意味にあまり重きを置いていなかったためかもしれない。

同じく傑作の『ブルーベルベット(Blue Velvet)』でリンチは、長年にわたって仕事を共にしてきた俳優ローラ・ダーン(Laura Dern)に、郊外の無垢な空気の中にある善良さを体現させた。画期的なテレビシリーズ『ツイン・ピークス(Twin Peaks)』では、学園祭の女王だったブロンド娘のローラ・パーマー(シェリル・リー)を、闇の世界に対する防波堤に据えた。

Blue Velvet official rerelease trailer


郊外の無垢な明るさを「リンチは心の底から信じている」。『ブルーベルベット』について語り合っていたとき、友人がそう言った。友人の頭にあったのは、主人公のジェフリー(リンチの長年の協力者カイル・マクラクランが演じた)が裏の世界から戻った後のラストシーンだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、雇用統計「不正操作」と主張 労働省統計

ビジネス

労働市場巡る懸念が利下げ支持の理由、FRB高官2人

ワールド

プーチン氏、対ウクライナ姿勢変えず 米制裁期限近づ

ワールド

トランプ氏、「適切な海域」に原潜2隻配備を命令 メ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    ニューヨークで「レジオネラ症」の感染が拡大...症状…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中