最新記事
映画

『エイリアン』最新作の小さすぎる野心...監督は「殺害シーンにだけ関心アリ」?

This Alien Is Just Inbred

2024年9月6日(金)14時06分
サム・アダムズ(スレート誌映画担当)

『エイリアン:ロムルス』の場面写真、ケイリー・スピーニー演じるレイン・キャラダインとデービッド・ジョンソン演じるアンドロイドのアンディ

『エイリアン:ロムルス』の場面写真、ケイリー・スピーニー演じるレイン・キャラダインとデービッド・ジョンソン演じるアンドロイドのアンディ ©2024 20TH CENTURY STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

過酷な環境の惑星で、鉱山労働者として過酷な労働に従事する女性、レイン・キャラダイン(ケイリー・スピーニー)が仲間と一緒に脱出を計画する。使われなくなった宇宙ステーションで冷凍休眠装置を奪い、それを使って別の惑星に向かおうというのだ。

ところが、その宇宙ステーションで遭遇するのが......そう、エイリアンだ。このとき、レインたちの前にアッシュとよく似たアンドロイドのルークが登場する。


『エイリアン』シリーズの作品には、生きることの意味という壮大なテーマもあるが、本質的には宇宙を舞台にしたホラー作品だ。

エイリアンたちは、ホラー映画でおのを振り回すモンスターと同じように、自分たちの目的を追求することに──ほかの生物の種を殲滅し、自分たちの仲間を増やすことに──ただただ邁進する。

ホラー作品ではその性格上、どうしても殺人者を愛することになる。第1作の『エイリアン』で早くもアッシュが称賛交じりに、宇宙船の乗組員のほとんどを抹殺したモンスターを「完璧な生命体」と呼んでいる。

第6作『エイリアン:コヴェナント』に至っては、エイリアン側の視点に立った描写も目につく。弱肉強食のハリウッドの映画産業において、勝者になったのは明らかにエイリアンだったのである。


アルバレスは、自らがつくり上げた世界がどのように受け取られるかをあまり考えていないように見えることが多い。関心があるのは、もっぱら次の殺害シーンだけだからなのかもしれない。

レインの世話をすることが最大の任務とされるアンドロイドのアンディを演じるのは、主要キャストで唯一の黒人俳優デービッド・ジョンソンだ。奴隷制の歴史を考えると、この設定は果たして......。

ルークがアンディに対してウェイランド・ユタニ社の謝意を述べる場面でも、こんなセリフがある。「あなたの型(のアンドロイド)は、われわれの植民活動の屋台骨を担ってきた」

アルバレスはおそらく、『エイリアン』シリーズの歴代監督の中で最も自己表現への野心が小さい監督と言えるだろう。そして、閉鎖空間を舞台にしたスリラー映画作りのスキルも傑出している。

しかし、この作品はそれなりに成功しているのかもしれないが、そもそも大きな志を抱いておらず、既存のシリーズの枠内にとどまることでよしとしているのを見ると、少しがっかりしてしまう。

『ロムルス』は、『エイリアン』シリーズの過去作の突然変異ではない。単なる近親交配だ。

©2024 The Slate Group


ALIEN: ROMULUS
エイリアン:ロムルス
監督/フェデ・アルバレス
主演/ケイリー・スピーニー、デービッド・ジョンソン
日本公開は9月6日

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

フィッチが仏国債格下げ、過去最低「Aプラス」 財政

ビジネス

中国、米の半導体貿易政策を調査 「差別的扱い」 通

ワールド

アングル:米移民の「聖域」でなくなった教会、拘束恐

ワールド

トランプ氏、NATOにロシア産原油購入停止要求 対
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 9
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中