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黒澤映画の傑作『七人の侍』公開70周年の今、全米で再び脚光を浴びる理由

Still Sharp at 70

2024年8月23日(金)16時30分
ジョーダン・ホフマン(映画評論家)

1960年代後半から70年代半ばのハリウッドで、黒澤の影響を最も大きく受けた映画監督はジョージ・ルーカスだ。彼の代表作『スター・ウォーズ』には、黒澤映画の影響がたくさん見られる。例えばR2-D2とC-3POの元になったのは、黒澤の『隠し砦の三悪人』(58年)で姫君の救出に巻き込まれるおっちょこちょいの農民2人だ。

「スター・ウォーズ」シリーズには『七人の侍』と共通する要素も多い。まずはシーン間の「ワイプトランジション」という技法だ。暗がりで深い智恵を授ける村の長老の姿は『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(80年)のヨーダに再現されているし、勝四郎と志乃のロマンスもハン・ソロとレイア姫の関係にそっくりだ。


語り継がれる三船の魅力

技術的な面では、最終決戦の盛り上がりに類似点を見いだすことができる。黒澤は複数のカメラを使って同じ戦いを異なる角度から撮影しているだけでなく、いくつもの小さな戦いをカットでつなぎ、スリリングな最終決戦に向けた盛り上がりを演出している。

『七人の侍』で最も強烈な輝きを放つのは三船敏郎だ。エネルギッシュで力強いだけでなく、『欲望という名の電車』のマーロン・ブランドのように、その予測不能な魅力でスクリーンを支配し、観客を魅了する。

彼が演じる菊千代は酔っぱらいで粗暴だが、笑えるし、繊細な一面を見せることもある。燃え盛る建物に踏み込んだ菊千代が赤ん坊を救い出すシーンは、おそらく『七人の侍』で最高に感動的だ。

ほかの俳優が演じていたら、菊千代はただ「声が大きいだけの乱暴者」になっていたかもしれない。だが三船が演じることで魅力的な人物になった。この映画が今も語り継がれている最大の理由は、たぶん三船の存在にある。

公開70周年を迎えて『七人の侍』は初めて4Kでリマスターされ、北米全土(ニューヨークやロサンゼルスだけでなく、オハイオ州やケンタッキー州、カナダのオンタリオ州なども含まれる)で大々的に公開された。

なにしろ大作だから、15分の休憩とポップコーンを買いに行く時間も加えたら、映画館で過ごす時間は4時間を超えるだろう。ひたすら忙しくて集中力の持続を苦手とする現代人には、かなりハードルの高い上映時間だ。

それでも多くの人が足を運んでくれたことを願う。16世紀の貧乏侍だって犠牲をいとわず、自らのミッションを貫徹したのだから。

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