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「下手な女優」役でナタリー・ポートマンに勝てる者はいない...14年ぶりに見せた説得力

Nobody Plays a Bad Actress Better

2024年7月5日(金)16時10分
サム・アダムズ(スレート誌映画担当)

『ブラック・スワン』で黒鳥に扮したナタリー・ポートマン

『ブラック・スワン』で黒鳥に扮したポートマン EVERETT COLLECTION/AFLO

個性がないという個性

何も隠すことのない、ありのままの人物を演じるときのポートマンは、簡単な質問にすらすら答えながらも、心ここにあらずといった風情の優等生を思わせる。もっと難しい問題を投げてやらないと、彼女は本気を出さない。

だが、本気を出しても彼女の素顔は見えない。どんなに彼女の出演作を見ても、本当のポートマンは見えない。たいていの映画スターには核となる個性があって、その周りに役が付いてくる。


トム・クルーズなら自信過剰な挑戦者、マーゴット・ロビーなら愛すべき反抗者といった具合だ。しかし、役者としてのポートマンにはそんな核がない。あっても私たちには見せない。

映画デビュー作『レオン』で中年の殺し屋に弟子入りした12歳の少女を演じた頃から、ポートマンは変わっていないのかもしれない。いつも完璧なテクニックを見せつけるけれど、それ以上に自分を見せようとはしない。

天才バレリーナのニナを演じた『ブラック・スワン』でもそうだった。ニナは『白鳥の湖』の主役に起用されるが、振付師は無垢な白鳥の役と、俗にまみれた黒鳥の役をどうしても同じ人物にやらせたい。

ところがニナは、白鳥役には最適だが毒がない。だからあえて、黒鳥の役を新人のリリーと競わせた。テクニックこそ劣るが、リリーには個性があった。ニナは「完璧」だが、リリーが踊る黒鳥は「本物」だ。振付師はそう言った。

物事の表面しか見えない

『メイ・ディセンバー』の話に戻ろう。ポートマン演ずるエリザベスに女優としての才能が欠けているのは明らかだ。

彼女は本気だし、ジョーとグレイシーの関係について「なんらかの真実」を描き出したい一心で取材していると言うのだが、グレイシーにはエリザベスの本心が透けて見える。グレイシーの人生もまた演技の連続だったからだ。

エリザベスはグレイシーの癖をまねし、化粧の仕方も同じにする。見た目を同じにすれば相手の心の裏も読めると信じたのかもしれないが、あいにく彼女には物事の表面しか見えない。そもそも自分自身に裏がないからだ。

自分は13歳のジョーに誘惑されたのだと、グレイシーはずっと自分に言い聞かせ、そうすることで罪悪感を押し殺してきたが、どこかに自責の念が残っている気配は感じられる。しかしエリザベスには、まず気配というものがない。

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