最新記事
クールジャパン

「伝統を汚す」「北九州の恥」と批判されたド派手着物でNYに進出 貸衣装店主・池田雅の信念は「お客様の要望は必ず叶える」

2024年1月16日(火)19時00分
宮﨑まきこ(フリーライター) *PRESIDENT Onlineからの転載

「ほんとはテレビに出たいんよ! テレビ局の人、取材に来てくれんかな?」

池田さんは地元のテレビ局に直接電話をかけ、新成人を取材してもらえるよう頼み込んだこともある。こうして北九州市の成人式は、地元テレビ局で放映され始め、その華美な姿が目を惹き全国のキー局までもが取材に来るようになる。

しかし、北九州市の成人式が有名になるにつれて、批判の声も高まっていった。

「北九州の恥」と苦情の電話が殺到した

「2012年ごろからかな、誰かがブログに書いたことをきっかけに、最初は匿名掲示板で叩かれ始めて。メディアでも取り上げられてからは、特に伝統を重んじる地元の方からの苦情の電話が入り始めたんです」

さらに、当時人気だった深夜バラエティで、北九州市の成人式が笑いのネタとして取り上げられたことが、地元からの批判を強める後押しとなった。

「北九州の恥だ」
「着物の伝統を知っているのか」
「日本の伝統を汚すな」
「この店のせいで、北九州の治安が悪くなってるんだ」

成人式を終え、スタッフ全員が疲れ果てている翌日に、批判の電話は集中した。池田さんとスタッフは、そのたびに一言も反論せず「貴重なご意見、ありがとうございます」と頭を下げた。

さらに2015年ごろからは、いわゆる「荒れる成人式」と北九州のド派手成人式が結びつけられてさらに批判が高まり、住民から北九州市に「陳情書」が出される事態となった。

『......この見るに堪えない成人式については、小倉北区の貸衣装店が成人式には不適切な服装や髪型を勧めることに問題がある。(中略)この恥ずかしい状況を変える責任は、北九州市にある。成人式について、考えてみてはどうか』(平成27年9月8日受付、陳情第106号より一部抜粋)

周辺住民からの声に押され、とうとう北九州市が動く。2016年1月10日の成人の日を前に、市は公式ホームページで異例の呼びかけを行った。

「新成人の皆さんにとって、『大人』として出席する初めての一大行事、きちんとした服装で出席するよう心がけましょう」

テレビやインターネット上で揶揄され、苦情の電話を受け続け、さらに市からも自分のデザインした着物を否定される。こうした批判が、成人式が終わるたびに繰り返された。

さすがにやめようとは思わなかったのか。そう尋ねると、池田さんは間髪入れずに答える。

「そりゃあつらかったし、傷つきましたよ。でも人によって価値観は違うので、プロとしてどんなご意見でも真摯(しんし)に受け止める覚悟はできています。それにどんなに批判を受けても、また次の新成人が新たなアイデアの種を持ってくるので、楽しくてやめられないんです」

「味方」からの裏切り

外野から何を言われても、新しいアイデアを形にする楽しさと新成人からの支持がある限り、池田さんはやめる気にはならなかった。しかし一度だけ、心折れかけたことがあるという。それは、信じて一生懸命尽くしたはずの、新成人からの裏切りだった。

みやびに来る新成人は、着物のレンタル料を自分の収入から分割で支払うケースが多い。しかし、若く、収入が不安定な新成人が支払う以上、時には分割払いが止まってしまうこともある。

客商売だからへんな噂は避けたいと、何年かは泣き寝入りしていたものの、そのうち「みやびは払わなくても大丈夫」という噂まで流れ始めた。のちに全国紙でインタビューに答えた未払い成人の一人は、先輩が支払っていないことを知り、最初から支払いを逃れるつもりで、申込書に前住所を書いていたと語った。

「......お客さまから裏切られたときは、本当につらかったですね」

企業経営
ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パートナーコ創設者が見出した「真の成功」の法則
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、8月下旬から少なくとも8200万ドルの

ビジネス

クーグラー元FRB理事、辞任前に倫理規定に抵触する

ビジネス

米ヘッジファンド、7─9月期にマグニフィセント7へ

ワールド

アングル:気候変動で加速する浸食被害、バングラ住民
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中