最新記事

エンターテインメント

最底辺「地下アイドル」が見た厳しい現実 松山あおいが下剋上を成功させた秘訣とは

2022年11月20日(日)11時00分
松原大輔(編集者・ライター) *東洋経済オンラインからの転載

「そんな話に騙される人いるの?」と思う方もいるだろうが、アイドルとして大きなステージを夢見る若者が「少しでも売れたい」その一心からあやしい話にもすがることは、多少なりとも理解できる。ゆえに騙されることがあるのだ。

事実、アイドルとして活動するためにはお金がかかる。自身のオリジナルの楽曲はもちろん、衣装代、ライブ会場までの交通費などなど。

だからこそ、残念なことではあるが、それにつけ込み、「夢を食い物にする大人」がいるのだ。

そもそも「地下アイドル」でアイドル活動の収益のみで生活できている人は、わずかな数といっていいだろう。

よほどの大手事務所でない限りまともな給料は出ないし、物販の売り上げに応じた歩合制の事務所が多い。

いまは人気を得た松山でさえも、つい最近までゲームセンターでアルバイトをしていたように、ほとんどのアイドルが、アルバイトなど別の仕事で生計を立てている。

そして、これはあまりイメージされないことだが、アイドルは間違いなく「肉体労働者」だ。

「バイトや学業」→「レッスン」→「ライブハウス」の往復。その合間には「ネット配信」に「SNSの更新」

キラキラした世界感や「夢」「希望」という言葉でかき消されがちだが、そんな日々を毎日のように送ると、肉体も精神もボロボロになる。

知りたくない裏側かもしれないが、相当に過酷な世界である。そんな中で人間不信になるような出来事に遭遇すれば、そのつらさたるや相当なものだろう。

もう、とにかく早く逃げたかったですね。その頃が一番つらかったです。それでちょっとフェードアウトしてから、活動を再開させてもらいました......」

この体験が、松山あおいのメンタルを恐ろしいまでに強く、強靭なものに育て上げたといっていいだろう。松山は休息を挟み、見事に復活を遂げる。

「セルフプロデュースアイドル」として突き進む

そこからは事務所に所属しない「フリーの立場」で活動する「セルフプロデュースアイドル」として突き進むこととなる。松山がキャッチフレーズとする「クリエイティブうたのおねえさん」の誕生である。

「もともと作ることが好きで。『まずは衣装を作ろう』となりました。それをきっかけにして、作れるものは全部自分で作っちゃおうって。グッズのTシャツも最初は手刷りで30枚作りました。これが手作りのグッズの一番最初ですね。ワンマンライブでも着てきてくれたファンの方がいて、その頃のこと思い出して、すごく嬉しかったです」

松山あおいさんのオリジナルのグッズ

松山あおいさんが手掛けたオリジナルのグッズの数々。Tシャツなどすべて自作し続けてきた(撮影:松原大輔)

実際、セルフプロデュースのアイドルは多々いるが、ひとりでやることには限界がある。けれども、松山はそれすら感じさせない「クリエイティブにおける継続力」を見せ続けた。

松山が自ら手掛けた代表的な作品が、アニメであろう。テレビ埼玉で放映されているアニメ『松山あおい物語』。2019年10月に第1期がスタートして、なんと今年第4期に突入しているアニメである。

このアニメ制作は松山自身が監督、脚本を手掛け、テレビ局へも自ら営業に回った。制作費もクラウドファンディングを活用し、ファンと一緒につくり上げてきている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる

ビジネス

訂正-米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中