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韓国ドラマ

イカゲームは既成概念を超えようとして、逆に「時代遅れ」の価値観に溺れた

MIRED IN A FAMILY GAME

2021年12月24日(金)17時48分
ハンナ・ユン
『イカゲーム』

カネにだらしないギフン(左)は年老いた母親を安心させることができないまま。主な登場人物はそれぞれ家族を背負っている COLLECTION CHRISTOPHEL/AFLO

<全てが「家族」に行き着くという韓国のテーゼに引きずられて、型破りのぶっ飛んだ舞台設定という魅力が減速していないか>

冒頭からテンポ良く展開する『イカゲーム』。現実離れした登場人物に命を吹き込み、子供の遊びと暴力的な富の追求を巧みに対比させる。

しかし、終盤になると破壊的な熱情は失われ、最近の韓国社会の変化から取り残されたまま、家族の価値について時代遅れの考えを強調して終わる(以下、ネタバレあり)。

最初の数エピソードは、韓国ドラマとしては珍しく、異端児のアンサンブルが圧倒的な輝きを放つ。ソン・ギフン(イ・ジョンジェ)はバツイチで無職。娘の親権を失い、借金取りに追われ、年老いた母親を養うこともできない。ギフンの幼なじみのチョ・サンウ(パク・ヘス)はソウル大学経済学部に首席で入学した証券マンだが、巨額の借金を抱えて逃亡中だ。

アリ・アブドゥル(アヌパム・トリパティ)はパキスタンからの移民。職場で上司にひどい扱いを受け、妻子に韓国を離れさせようとする。ゲームの1番目の参加者オ・イルナム(オ・ヨンス)は、家族のいない無一文の老人のようだ。

ギフンは会ったばかりのイルナムに、「お嫁さんが作ったご飯を食べて、部屋で寝そべってかわいい孫を眺めていればいいのに」と言った。すると、「君の両親は(作ってもらっているのか)?」と返される。

このやりとりは、韓国の価値観の変化を微妙に反映している。韓国の若い世代には結婚したり、子供を儲けたり、年老いた親の面倒を見たりすることを義務と感じない人が増えている。そして、特に高齢者の間で孤独死が増えている。

ドラマの中の対立が、経済的にも社会的にも現実の問題を示唆していることは明らかだ。韓国ではますます多くの人が、登場人物たちと同じように、家族に対して伝統的な義務を果たすというプレッシャーと戦いながら生活苦にあえいでいる。

迷走するストーリーの行方

最初の3つのゲームでは、プレーヤーが負け犬同士でそれなりに団結し、ゲームの課題も構造化されている。しかし、この公式が崩れるとドラマは勢いを失い始める。

第4ゲームの「ビー玉遊び」は、何でもありの混乱状態。暴力団員のチャン・ドクス(ホ・ソンテ)は次々にルールを変える。サンウは明らかにアリに負けていたが、だましてビー玉を奪い取る。脱北者のカン・セビョク(チョン・ホヨン)と元受刑者の若い女性ジヨン(イ・ユミ)は身の上話を始め、制限時間ぎりぎりまでゲームを始めさえしない。

ストーリーの迷走以上に大きな変化は、お金が全てではないというドラマの命題が、家族がいなければ意味がないというメッセージに変わっていくことだ。

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